今回は、「後見制度支援信託」を利用するまでの具体的な手続きや流れを見ていきます。※本連載は、山口明弁護士、田中貴一弁護士、高松志直弁護士の共著書籍、『民事信託活用の実務と書式  事業承継、財産管理、事業展開における積極的活用』(日本評論社)の中から一部を抜粋し、事業承継、高齢者の財産管理および新たな事業展開に信託を利用した場合のメリットと、申請時に使用する信託の文書書式の例を紹介します。

後見制度支援信託では、どんな費用が発生するのか?

前回の続きです。

 

⑶後見制度支援信託に必要となる費用

 

後見制度支援信託を利用する場合、①弁護士等の専門職への報酬や②信託銀行等に対する手数料が必要となります。①については、家庭裁判所により、専門職が行う仕事の内容や利用者の資産状況等の諸事情を考慮して決定されることになります(この点に関しては、事件の性質上、後見終了までの専門職の報酬総額との関係で専門職後見人の選任が適当ではないと判断されることもあります)。②については、各信託銀行等により異なりますので、それぞれの信託銀行等に問い合わせることが必要となります。

 

具体的な信託報酬の設定方法は、運用に関する信託報酬を受領するケースや設定時に一定金額の設定報酬をまとめて受領するケースなどがあります(詳細については、信託銀行等のそれぞれのウェブサイト等を参照して下さい)。

 

⑷契約の締結

 

後見制度支援信託においては、利用者が委託者となって、信託銀行等と信託契約を締結することになります。

 

利用者は、この信託契約に基づき、必要な金銭を受託者たる信託銀行等から受領することができます。

「利用に適しているかどうか」は慎重に判断

⑸具体的な手続

 

後見制度支援信託を利用する場合、後見制度支援信託の利用に適しているケースかどうかの判断が必要となります(下記図表参照)。

 

[図表]後見制度支援信託の概要

 

(家庭裁判所「後見制度において利用する信託の概要」より抜粋)
(家庭裁判所「後見制度において利用する信託の概要」より抜粋)

 

後見人が後見制度支援信託の利用に適しているケースと判断した場合、①信託する財産の額、②親族後見人が日常的な支出に充てるための額などを設定し、家庭裁判所に報告書を提出することになります。

 

家庭裁判所は、報告書の内容を確認し、後見制度支援信託の利用に適しているケースかどうかを検討し、そのケースが利用に適していると判断する場合、後見人に指示書を発行します。

 

そして、後見人は、利用する信託銀行等に指示書を提出し、信託契約を締結することになります。

信託契約締結後、多額の支出や収入が発生した場合は?

⑴用語の説明

 

「預金保険制度」

金融機関が破綻した場合に、預金者等の保護や資金決済の確保を図ることによって、信用秩序を維持することを目的とした制度です。預金保険機構が一定額の保険金を支払うこと等により預金者等の保護が図られる制度をいいます。


「預金保険機構」

預金者等の保護および破綻金融機関に係る資金決済の確保を図るために預金保険制度を適切に運用する機構をいいます。

 

⑵派生問題

 

ア.信託契約締結後に多額の支出が必要になった場合

 

家庭裁判所に必要な金額とその理由を記載した報告書を提出して対応します。

 

家庭裁判所は、報告書の内容に問題がないと判断すれば指示書を発行します。この指示書を信託銀行等に提出することによって、必要な金銭が信託財産から払い戻されることになります。

 

イ.信託契約締結後に多額の臨時的収入があった場合

 

通常使用しない金銭については、資産確保の目的から、追加信託を行う方向で調整を行うことになります。

 

この場合、家庭裁判所に対し、追加信託の報告書を裏付資料とともに提出する必要があります。

本連載は、2015年7月25日刊行の書籍『民事信託活用の実務と書式  事業承継、財産管理、事業展開における積極的活用』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

民事信託活用の実務と書式 事業承継、財産管理、事業展開における積極的活用

民事信託活用の実務と書式 事業承継、財産管理、事業展開における積極的活用

山口 明,田中 貴一,高松 志直

日本評論社

個人事業者等が民事信託を用いて事業承継や高齢者の財産管理、あるいは新たな事業展開を行う場合の利点や留意点を事例に則して解説。 [目次] 序 章 甲野家が抱える課題と展望 第1章 事業承継  第1節 相続におけ…

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