海外取引で発生した「代金未収トラブル」・・・解決方法はあるか?

今回は、海外取引で発生した「代金未収トラブル」の解決方法を探ります。※本連載は、日本・ニューヨーク・香港という3つの地域で弁護士資格を持ち、中小企業の海外展開について豊富な支援実績を持つ国際弁護士、絹川恭久氏の著書、『国際弁護士が教える海外進出 やっていいこと、ダメなこと』(レクシスネクシス・ジャパン)の中から一部を抜粋し、法務部や顧問弁護士を擁しない中小企業経営層に対して、「海外進出時の基礎的な法知識」を分かりやすく解説します。

海外取引でのトラブル解決には、お金と時間が必要

前回の続きです。

 

YM社の場合、恐らく「法律論」による結論としては、元々の契約通りに代金全額の支払いを請求することができます。また、別の選択としては、手元に残った製品を他社に転売して得られる代金と元々の代金の差額を損害として請求することもできます。

 

しかしながら、契約書には「本契約に関する両者の紛争については仲裁により解決する」、と記載されていました。このため、T社が代金支払いを拒否した場合、YM社が支払いを強制するためには仲裁を起こすしかありません。

 

仮に仲裁で勝ったとしてもT社が支払いを拒否したら、T社の財産に差押えをかけなければなりません。そうしないと、せっかく仲裁に勝っても認められた金額はYM社の手元に入ってきません。

 

ところが、ここで大きな問題として、仲裁を行うためにYM社は負担しなければならない費用の問題があります。仲裁にかかる費用としては、

 

①弁護士費用

②仲裁人報酬

③仲裁機関の管理費用

④その他仲裁に関する実費(仲裁場所の確保、文書の翻訳、仲裁場所への移動・宿泊費用等の実費)

 

などがかかります。さらに、仲裁手続の準備をするために証拠を整理したり、社内の担当者と経営陣の間で何度も会議を指定し決定をしなければなりませんので、お金の問題だけではなく、YM社の社員の多くの人手が必要になります。

 

これら仲裁にかかる費用を合計すると、もしも相手方のT社が粘り強く仲裁手続を最後まで争ってきた場合にはYM社にトータルで500万円以上多ければ1000万以上かかってしまう可能性がありました。

 

さらに、よくよく業界の情報筋を調査したところでは、T社は海外との取引で裁判や仲裁になったときは、必ず多数の弁護士をつけて徹底的に争ってくる、という評判があることが分かりました。

外国企業が相手だと、資金回収の見通しも立てにくい

ここで、筆者がお伝えしたいのは、裁判や仲裁については、勝敗や主張の当否よりも、実は企業にとって一番重要な考慮要素である、「費用」についてあらかじめ知っておくことが非常に重要である、ということです

 

裁判などの紛争が起きた時、紛争を解決するための費用について、一般的に企業は次のように考えます。まず、

 

①そもそも紛争解決自体にお金をかけたくない

 

②仮にお金がかかるのがやむをえないとしても、金額を想定の範囲内に収めたい

 

③金をかけて争う以上、紛争解決手続(裁判や仲裁)により確実に損害(代金)を回収できるのかどうか、あらかじめ知っておきたい

 

と思っています。そして感情的・心理的にも、企業法務担当者や経営者の方々は

 

④争いごとは余計な仕事が増えて精神的にもストレスがたまるので、ほかの業務にも支障が出る。だから紛争はなるべく早めに解決したい

 

と思っています。

 

仮に、国内企業同士の紛争で、相手が日本企業であったとしても、裁判をやって最終的にお金を回収できるのかどうか、いつまでに回収できるのか、紛争相手の態度や財産状況次第で見通しが全く分からないことがよくあります。ましてや外国企業が相手では、その見通しを立てるのはかなり難しくなります。

 

熟練した弁護士であってもこの見通しを断言できる人はいません。せいぜい、起こりうる事態の可能性を企業にいろいろと示してあげることはできるかもしれません。ですので、裁判や仲裁を起こすのかどうかは、結局紛争に巻き込まれた企業が費用や確実性、時間的な緊急性を総合的に検討して「自分自身」で判断しなければなりません

 

ですが、実際にお金を回収できるかどうかがはっきりしないのに、裁判や仲裁を起こす、ということは、そもそも損得勘定が不能なのです。

 

したがって、裁判や仲裁に進むか退くか判断する企業にとっては、一種の賭けとなってしまいます。大企業であっても、結果が分からない一種の賭けのような仲裁や裁判のために数百万円から数千万円の予算を計上するのは相当困難です。

 

このように、そもそも紛争になった原因や法律的責任を考えると一方的に契約内容に違反したT社が悪いのに、これを正すために自らコストを先に負担しなければならないとは、YM社にとっては非常に理不尽な状況です。

 

結局、YM社は仲裁を起こさず交渉した上和解で問題を解決しましたが、当初の売買代金より相当値下げした金額しか受け取ることはできませんでした。仲裁を起こしていればもっと費用がかかったかもしれない、ということで出したぎりぎりの経営判断でした。

 

この話は次回に続きます。

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連載企業の海外進出――よくあるトラブルと対応策

弁護士(日本、香港<ソリシター>、ニューヨーク州)

2003年東京大学法学部卒業。2002年司法試験合格、2004年10月弁護士登録(沖縄弁護士会)。2004年10月から2008年まで那覇市の総合法律事務所にて勤務し、企業法務から一般民事まで幅広く従事。2008年6月に退職し、同年7月からロサンジェルスの南カリフォルニア大学での語学研修後、シアトルのワシントン大学ロースクールでアジア法及び比較法LL.Mを専攻、翌2009年修了。2010年2月ニューヨーク州弁護士登録。
2009年から2010年にかけて、ハワイ州ホノルルの法律事務所2ヶ所(Bays Deaver Lung Rose Holma、Otsuka and Associates)で実務研修。2010年10月に弁護士法人キャストに参画。以後、東京拠点、大阪拠点での勤務を経て2012年1月から香港拠点(村尾龍雄律師事務所)に常駐。2014年8月に香港ソリシターとして登録し、現在Li&Partners律師事務所に出向中。

著者紹介

国際弁護士が教える海外進出 やっていいこと、ダメなこと

国際弁護士が教える海外進出 やっていいこと、ダメなこと

絹川 恭久

レクシスネクシス・ジャパン

中小企業が海外展開を進めようとするとき、難関となるのは「進出しようとする対象国の現地法に基づいた、自社事業の法的整備」、そして「信頼できる提携先・アドバイザーの確保」です。しかし、国内にある公的な海外展開支援機…

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