海外企業との取引 「継続的な契約」の締結による失敗例

今回は、海外企業との取引で「継続的な契約」を結んだことによる失敗例を見ていきます。※本連載は、日本・ニューヨーク・香港という3つの地域で弁護士資格を持ち、中小企業の海外展開について豊富な支援実績を持つ国際弁護士、絹川恭久氏の著書、『国際弁護士が教える海外進出 やっていいこと、ダメなこと』(レクシスネクシス・ジャパン)の中から一部を抜粋し、法務部や顧問弁護士を擁しない中小企業経営層に対して、「海外進出時の基礎的な法知識」を分かりやすく解説します。

「複数回の取引」を考慮した契約が必要に

次に、二つ目の段階、②継続的な契約の事例を見ていきましょう。

 

①単発の契約→②継続的な契約→③合弁会社設立→④独資子会社設立

 

前回の「単発の契約」の事例で、筆者は、リスクをなるべく下げるために、

 

「売り手(モノ・サービスの提供者)なら、なるべく早くお金を受け取るべきであり、買い手(モノ・サービスの購入者)なら、なるべく遅くお金を払うようにするべき」

 

といいました。皆様もお気づきのとおり、これは単発の契約であろうと、継続的な契約であろうと同じことではあります。しかし、継続的な契約になると、取引の回数が複数回に及びますので、別の観点からの注意が必要です。

不良品による損害金を回収できなかった事例

JF社は、自社のブランドとデザインによる女性用の衣服を中国内の工場に委託して製造させ、日本の小売店向けに輸入販売する会社です。

 

4年前からJF社の社長さんが工場長と個人的に親しくなったため、中国内のB工場に、定期的に製品の委託製造を発注するようになりました。取引頻度が増えてきたので2年ほど前に基本事項を定めた取引基本契約書を取り交わしました。

 

契約書の規定ではそれまでのやり方に従って、発注時に30%の前金、出荷時に70%の残代金の支払いをする約束となっていました。

 

委託製造に当たってはJF社の品質管理の人員を中国に出張させて毎回の出荷ごとに工場で抜き取り検品をしていました。このため、これまでのところ、国内に届いた製品にはごくたまに欠陥等が見つかる程度で品質上大きな問題はありませんでした。

 

日本国内の売上げが好調で発注する品目が増えてきたため、次第に取引が拡大し、常時複数のオーダー品がB工場で平行して製造される状態になりました。

 

ところが、あるとき発注したコートを出荷前に検査したところ、色落ち、縫製のずれなど到底日本の市場には売れない仕上がりになっておりました。

 

このため、JF社は、急いで作り直し対応をさせました。このコートは冬物で顧客への納期が近づいていたため、JF社は補正を急がせて何とか納期内に出荷までこぎつけました。

 

ところが、補正が十分でなかったため、日本で受け取った顧客からクレームが続出し、結局ほぼ半数が返品処理となってしまいました。

 

JF社はこの分の損失は別オーダーの春用商品の出荷時の支払残金70%の支払いから差し引くことにして、その旨をB工場に通知しました。ところが、これに対しB工場から、「その金額しか払わないなら、別オーダーの春物商品を出荷しない」と回答してきました。

 

さらに、B工場は「別オーダー商品の支払いが受けられないならば、仕掛かり中の他のすべてのオーダー商品の製造も止める」、とか、「工場に保管されている出荷待ちの春物商品を中国内で転売する」、という明らかに契約違反の脅しまでかけてきました。

 

JF社としては、前回オーダーのコートの返品対応や返送費用などトータルで500万円以上の損害が出ておりましたし、何より脅しの内容が度を越しており、これを安易に見過ごすことはできません。当然断固たる法的手段をとることを考えました。

 

他方で、別オーダーの春物商品は季節モノであるため、すでに冬物のコート返品で散々クレームを受けている日本国内の取引先に対してまたも春物商品の納期限を逃すことは、今後の商売上致命的になると考えました。

 

結局、熟慮した結果JF社はB工場の主張に負けて、前回オーダーの500万円の損失は損失として相殺しないでおいたまま、苦渋の決断で別オーダーの春物商品の残金70%を支払うことに決めました。

 

その後も、先のコートの欠陥による損害金500万円賠償の交渉を継続しましたが、B工場側が適当なはぐらかしをしたため、JF社はなかなか損害金を回収することができませんでした。

 

結局、この問題が解決することなく、損害金の問題は事実上「棚上げ」、となってしまいました。

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弁護士(日本、香港<ソリシター>、ニューヨーク州)

2003年東京大学法学部卒業。2002年司法試験合格、2004年10月弁護士登録(沖縄弁護士会)。2004年10月から2008年まで那覇市の総合法律事務所にて勤務し、企業法務から一般民事まで幅広く従事。2008年6月に退職し、同年7月からロサンジェルスの南カリフォルニア大学での語学研修後、シアトルのワシントン大学ロースクールでアジア法及び比較法LL.Mを専攻、翌2009年修了。2010年2月ニューヨーク州弁護士登録。
2009年から2010年にかけて、ハワイ州ホノルルの法律事務所2ヶ所(Bays Deaver Lung Rose Holma、Otsuka and Associates)で実務研修。2010年10月に弁護士法人キャストに参画。以後、東京拠点、大阪拠点での勤務を経て2012年1月から香港拠点(村尾龍雄律師事務所)に常駐。2014年8月に香港ソリシターとして登録し、現在Li&Partners律師事務所に出向中。

著者紹介

国際弁護士が教える海外進出 やっていいこと、ダメなこと

国際弁護士が教える海外進出 やっていいこと、ダメなこと

絹川 恭久

レクシスネクシス・ジャパン

中小企業が海外展開を進めようとするとき、難関となるのは「進出しようとする対象国の現地法に基づいた、自社事業の法的整備」、そして「信頼できる提携先・アドバイザーの確保」です。しかし、国内にある公的な海外展開支援機…

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