企業財務において重要となる「ストック」からの支払い能力

前回は、「短期借入金」が経常収支額を上回る倒産の兆候について解説しました。今回は、企業財務において重要となる「ストック」からの支払い能力について見ていきます。

流動比率は安全性を測る指標のひとつであるが・・・

ここまでは、フローからの支払い能力について検証してきましたが、たとえフローから支払いができなかったとしても、ストックが十分にあれば企業はただちに倒産するわけではありません。

 

住宅ローンの比喩で言えば、給料からローンを支払えなくなったとしても、住宅を売却した時に、ローンの残債を一括返済してお釣りがくるようであれば、心機一転、余裕をもった生活ができるからです。

 

ですから、企業が倒産するかどうかは、フローだけでなく、ストックの面からも評価しなければなりません。

 

極論を言えば、たとえ取引先が倒産したとしても、その企業の資産で債務をすべて支払ってもらえるのであれば、金額のうえでは自社に実害はないわけです(事実上は回収活動をしたり、他の仕入先を探すなどの業務が発生することになりますので、負担が発生しますが)。つまり、倒産の危険を評価するうえでは、ストック(資産)の見積りも重要になります。

 

ストックによる支払い能力の評価方法は、いわゆる流動比率という財務指標の考え方と似ています。

 

前述の通り、流動比率は安全性を測る代表的な指標です。

 

確認となりますが、流動比率とは、流動資産(1年間で得られる資産と)と流動負債(1年間で支払う債務)を比較したものです。流動資産のほうが多ければ企業は安全であり、流動負債のほうが多ければ危険だとの考え方に基づいています。

 

流動比率も、たしかに重要な指標だとは思うのですが、私はそれで安全性を見ることに対して、改良すべき点があると考えています。

 

なぜならば、流動比率は、以下のような欠点があるからです。

 

1.流動部分(1年分)しか評価しないこと

2.負債には支払い義務がないものも含まれていること

3.粉飾の危険を検討していないこと

減価償却費と同じ概念である「のれん」の考え方

企業の安全性を見るのであれば、私は流動部分だけでなく、全体の支払い能力を評価するべきだと考えています。

 

また、支払い能力を評価するなら、キャッシュでの支払い義務がない負債は含めるべきではないとも考えます。そして、資産が本当に回収(換金)できるものなのかも評価すべきと考えています。

 

ということで、次のような方法で、ストックの支払い能力を評価します。

 

まず、企業が保有している資産とは何かといえば、BSに記載されている総資産のことです。

 

この総資産の中には現金や売掛金、在庫や土地や建物、投資有価証券などすべてが含まれていますが、その中から換金性のない資産を除外します。総資産には換金できないような資産も含まれているからです。

 

換金性のないものとは、たとえば、「のれん」とか「繰延税金資産」のことです。

 

「のれん」とは、買収した企業の付加価値部分ですから、換金することができません。「のれん」は、ある企業を買収した時に、対象企業を帳簿の資産額以上で購入した時に発生します。

 

総資産100万円の会社を130万円で購入した場合、30万円分がのれんとして資産に計上されます。

 

この「のれん」は複数期間に分けて費用として計上されていき、最後にゼロとなって資産からなくなります。減価償却費と同じ概念です(米公会計基準や国際会計基準の場合は費用計上されません。買収した会社が思うように効果を上げられない場合には、減損処理をして資産の価値を減額します。なので、減損にならない限り、償却の費用が計上されませんので、その分だけ利益を増やすことができます)。

 

この「のれん」は、資産に計上されていますが、特に誰かに売却できるものではありません。会社を買収した時に、その会社の総資産より多く払った分を資産として計上しているだけですので、換金性資産としては考慮できないわけです。

繰延税金資産は「意味のある」資産

総資産の中には繰延税金資産という資産も含まれています。

 

これは、会計上と税務上の税金の計算において、支払い時期に差異が発生した時に計上するものです。イメージとしては、税金の前払い分に近い感じでしょうか。

 

また、税額減少分を資産化したものですから、次年度以降で赤字になって税金を払わないことになれば、資産価値がなくなります。

 

ちなみに、2003年に国有化されたりそな銀行は、この繰延税金資産の計上を監査法人に認められず、自己資本不足になって国有化されてしまいました。

 

このように繰延税金資産は、来期以降も黒字という条件で意味のある資産であり、かつ税務署に払うものなので、他への支払いに充てることができない資産です。このようなものは換金性がある資産とは言いがたいので、これもストックの支払い能力から控除する必要があります。

本連載は、2016年10月12日刊行の書籍『取引先の倒産を予知する「決算書分析」の極意』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

アロックス株式会社 代表取締役社長

大学卒業後、機械メーカーの営業職を経て、「倒産リスク情報」を販売する企業に入社。商社や金融機関、メーカーの調達部門などを中心に、数多くの企業の与信管理業務やサプライヤ管理業務をサポートする。2013年3月、アロックス株式会社を設立。決算書に基づいた倒産リスク評価を行うソフトウェア「アラーム管理システム」を提供し、「決算書を読めない人の数をゼロにする」ことを目標に、システム開発やセミナー等を行っている

著者紹介

連載「決算書分析」で取引先の支払い能力を見極める方法

取引先の倒産を予知する「決算書分析」の極意

取引先の倒産を予知する「決算書分析」の極意

田中 威明

幻冬舎メディアコンサルティング

分業化、グローバル化が進んでいる現代にあって、自社のみで事業を営むことはできません。取引先の経営状況を正確に把握することは、これからの時代を勝ち残るために必要不可欠です。 しかし、教科書的な決算書分析の手法で、…

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