今回は、自分の財産を「甥・姪に代襲相続させない」方法について説明します。※本連載は、弁護士・武内優宏氏の著書『おひとり様おふたり様 私たちの相続問題』(セブン&アイ出版)の中から一部を抜粋し、「おひとり様」の相続を巡るさまざまなトラブルを、具体的な事例を取り上げて解説します。

依頼人は妻を病気で亡くし、子どもがいないが・・・

【case3】自分の財産は兄弟だけに相続させたい

●相談者:高橋次郎(仮名 55歳)
●被相続人(予定):本人(配偶者故人、子供なし)
●相続人: 長兄の子3人(兄が亡くなっているため)、姉、弟
●相続財産:自宅不動産、預貯金、株、投資信託

 

相談者の高橋次郎さんは、都内の印刷会社へ勤務しています。数年前に妻を病気で亡くし、現在は一人暮らしをされています。春に受けた会社の健康診断で大腸に腫瘍が見つかり、再検査を受けたところ、大腸がんだということがわかりました。「早期発見なので、すぐに手術をすれば大丈夫ですよ」と医師に言われ、高橋さんは手術を受けました。結果、医師の言うように、手術は成功です。

 

ところが、体調が回復すると同時に、高橋さんは不安を募らせました。実は、妻をがんで亡くしているからです。高橋さんには、子供がいません。「もし、このまま死んだとしたら、自分と妻のために残してきた財産は、姉や弟だけでなく亡くなった兄の子供のもとへ行く」そう考えた高橋さんは、「自分が死んだあと、できればめったに会わない甥たちにではなく、姉と弟だけに財産を遺したいんです。この場合、どうしたらいいでしょうか?」と相談にいらっしゃいました。

 

高橋さんのケースは、おひとり様からよく伺う相談内容です。「会ったこともない甥姪に財産を渡すくらいなら、兄弟姉妹だけに相続させたい」このケースの場合、必ず遺言書を作成する必要があります。

遺言書に記したい「財産の行く先」と「祭祀継承者」

例えば、高橋さんのケースですと、遺言書にこう記載すればいいでしょう。「自分の全財産は、存命の姉、弟に均等の割合で相続させる。また、姉、弟のうちのいずれかが死亡した場合は、存命の兄弟に相続させる。甥への代襲相続はしない」

 

甥姪には遺留分(最低限相続できる権利)がないので、このような遺言書を作成しておけば、高橋さんがお亡くなりになったあと、高橋さんの財産は姉と弟へ引き継がれます。ただ、兄弟が2人とも高橋さんよりも先に亡くなってしまった場合には、遺言書の効力はなくなってしまいますので注意が必要です。高橋さんが亡くなられたあとのことも考えるならば、姉か弟に遺言内容を話しておいたほうがよいでしょう。

 

なぜ、遺言内容を姉弟に話したほうがいいのかというと、ケース2でも述べたように、高橋さんが亡くなられたあと「死亡届」「葬儀」「お墓」「遺品整理」などの手続きを行わないとならないからです。

 

この場合でしたら、高橋さんの姉か弟を遺言で「祭祀(さいし)継承者」として選任したほうがよろしいかと思われます。祭祀継承者とは、葬儀や年忌法要の主宰をし、仏壇、お墓を守っていく人のことです。

 

「祭祀継承者の指定」は遺言の効力が生じるので、遺言に書いておけば指定できます。例えば、弟を祭祀継承者にした場合、遺言書に「祭祀継承者として、弟の高橋三郎を指定する」と書けばよいのです。

本連載は、2015年3月1日刊行の書籍『おひとり様おふたり様 私たちの相続問題』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

おひとり様おふたり様 私たちの相続問題

おひとり様おふたり様 私たちの相続問題

武内 優宏

セブン&アイ出版

「自分が死んだあと、親族に迷惑は掛けたくない」。高齢者のおひとり様の相談では、口をそろえて皆さんがおっしゃいます。その不安を取り除くには、法律の知識を用いてさまざまな対策を考えて、実行していくしかありません。兄…

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