借金持ちの「独身の兄弟」が亡くなった場合の対処法

今回は、借金持ちの「独身の兄弟」が亡くなった場合の対処法を見ていきます。※本連載は、弁護士・武内優宏氏の著書『おひとり様おふたり様 私たちの相続問題』(セブン&アイ出版)の中から一部を抜粋し、「おひとり様」の相続を巡るさまざまなトラブルを、具体的な事例を取り上げて解説します。

疎遠になっていた「独身の兄」が亡くなった・・・

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疎遠になった独身の兄弟の相続

 

●相談者:山田武(仮名58歳)

●被相続人:兄(配偶者なし、子供なし)

●相続人:姉、弟(相談者)

●相続財産:不明

山田武さんは、都内の大手建設会社で会社員をしています。家庭も円満で、郊外の自宅マンションに妻と高校生の息子と暮らしています。

 

先日、仕事の打ち合わせ中、妻から携帯電話に着信がありました。折り返しの電話をすると「あなたのお兄さんが亡くなったと、警察から電話がきたんだけれど……」と告げられました。

 

山田さんは、姉と兄がいる3人兄弟の末っ子です。母親は36年前に白血病で亡くなり、父親は20年前に胃がんで亡くなりました。兄とは父親の遺産相続でもめてから会っていません。

 

当時、兄は自分で興していた事業がうまくいっておらず、父親の遺産を独り占めしようと画策しました。そのことがきっかけとなり、山田さんと姉は兄と決裂し、以来、兄がどこで何をやっているのかも知りません。

 

妻からの電話を切ったあと、山田さんは姉に連絡をしました。

 

その日、山田さんは会社を早退して、姉と一緒に兄の遺体を地方都市の警察署へ引き取りにいきました。その後、山田さんが喪主となって葬儀を主宰しました。

 

また、警察から兄の住所を聞き、山田さんと姉は遺品整理のために、生前、兄が住んでいた賃貸マンションへ行きました。玄関を開けると、物やごみがそこら中に散らかっており、部屋は雑然としています。素人ではすぐに部屋を片付けることができないと判断した山田さんたちは、遺品整理会社へ頼むことにしました。遺品整理会社に立ち会ったとき、兄の残していった書類の山をなんの気なしに山田さんが見てみると、ほとんどがカードローンの明細でした。

 

山田さんは「そもそも、兄とは疎遠で、なにがどこにあるのかもわかりません。しかも、借金もたくさんしているかもしれない。どう相続手続きすればいいのでしょう」と相談にいらっしゃいました。

信用情報機関で被相続人の「借り入れ情報」を調べる

相続はプラスの財産だけでなくマイナスの財産も引き継ぎます。

 

山田さんのケースでは、山田さんと姉は独身の兄と疎遠なので、「どのような財産があるか」わかるはずがありません。それでなくても、おひとり様の財産は見えにくいものです。

 

また、兄は事業を営んでいたということなので、会社の借り入れの連帯保証人になっていることも予想されます。このような場合、多額の借金を相続することにもなりかねません。

 

このように相続内容がわからないとき、まず「全国銀行個人信用情報センター」「日本信用情報機構」などの信用情報機関で、被相続人の借り入れ情報を調べることができます。

 

相続人には、これらの情報機関で被相続人の情報を調べる権利があります。調べた結果、相続放棄を視野に入れたほうがよさそうです(信用情報の読み方はなかなか難しいので、きちんと専門家にも相談したほうがよいでしょう)。

 

ただし、連帯保証は金融機関が信用情報機関に登録しない場合があります。また、個人からの借り入れについては信用情報は登録されません。

 

「名前が出てこなくてよかった」と安心して相続した結果、実は被相続人が会社の連帯保証をしていて、その会社が倒産したときに、相続人が借金を背負うはめになります。山田さんのケースでは「相続放棄」「限定承認」という手続きをすれば、借金の全部または一部を引き継がなくても済みます。

 

財産を相続しないのであれば、きちんと手続きをしましょう。相続を放棄するには、相続開始時から3カ月以内に裁判所に対して、相続放棄の申述をするという正規の手続きが必要です。

「相続放棄」と「限定承認」とは?

相続放棄は、プラスの財産もマイナスの財産もすべての財産を一切放棄して、相続しない方法です。また、相続放棄をすると、相続人ではないとみなされるので、代襲相続もできません。

 

限定承認は、プラスの財産で払える範囲で、マイナスの財産を引き継ぐ条件付きの方法です。この方法は、被相続人の負の財産の金額がわからない場合、たとえマイナスの財産が多くても、プラスの財産で払える分しか相続人は負う必要はありません。

 

限定承認は相続人全員の合意がなければ行えません。もしも、山田さんの長男に実は子供がいた場合、相続人を探し出す必要があります。

 

いずれにしても、相続放棄や限定承認をする場合には、詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

 

特に、疎遠になっている独身の親族が亡くなった場合、通常の相続よりもいっそう見えにくい分、手間も時間もお金もかかります。

本連載は、2015年3月1日刊行の書籍『おひとり様おふたり様 私たちの相続問題』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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連載トラブル実例から学ぶ「おひとりさま」の相続対策

法律事務所アルシエン 弁護士

1980年、東京都に生まれる。早稲田大学政治経済学部卒業。2007年弁護士登録後、2011年に法律事務所アルシエン開設。遺言・相続に関する案件や葬儀社の法律顧問業務など、「終活」に関わる法的問題を多く扱っている。また、遺言・相続セミナーなど講演も多数行っている。特に「おひとりさま」からの法律相談、孤独死した方の遺族からの相談に精力的に取り組んでいる。

著者紹介

おひとり様おふたり様 私たちの相続問題

おひとり様おふたり様 私たちの相続問題

武内 優宏

セブン&アイ出版

「自分が死んだあと、親族に迷惑は掛けたくない」。高齢者のおひとり様の相談では、口をそろえて皆さんがおっしゃいます。その不安を取り除くには、法律の知識を用いてさまざまな対策を考えて、実行していくしかありません。兄…

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