税理士「なぜそんな低額で決めたのですか?」
そんな折、店に届いた一通のM&A仲介会社からのダイレクトメールが目に留まりました。
『後継者不在のお悩みは実績十分の当社が解決します。相談は無料です』確かにテレビCMや新聞で見聞きしていた会社名です。「無料だし、一度相談だけでもしてみるか」。
来訪した大手M&A会社から『健康を害してからでは遅いですよ』『従業員の雇用を守りましょう』と不安をあおられた田中社長は、自身の健康不安も確かにあり、仲介契約を結びました。そして、間もなく、地元の大手洋菓子店を紹介されたのでした。社長直々の訪問があり、その真摯な姿勢に好印象を抱いたことで、とんとん拍子に進みました。
しかし、田中社長には少し引っかかる点がありました。それは譲渡額が2,000万円となっていたことです。M&A仲介会社に支払う仲介料は1,500万円であり、田中社長の手元にはほとんど残らない計算となります。「たった500万円しか残らないのか……」
しかし、M&A仲介会社の担当者から『この話を逃すと次は手を上げる候補はいないかもしれません』『こんな良い相手はいませんよ』『大手ですし従業員さんは安心ですよね』と説得され、その日のうちに渋々譲渡を決めたのでした。
契約をし、次の日に顧問税理士に報告すると、「なぜそんな低額で決めたのですか?」「どう計算しても数倍の価値はあります」と聞かされたのでした。
「守秘義務があるため、契約するまでは誰にも相談してはいけないと言われたので……そんな……」言葉が出ませんでした。
しかし、譲渡契約は適正に完了しており、後の祭りでした。今、田中社長は、先祖代々の事業を二束三文で譲渡してしまったことを後悔して、細々と年金暮らしをしています。
どうすれば失敗しなかったのか……
数年前から、「給与が高い企業ランキング」上位に、M&A仲介会社がズラリと並ぶようになりました。
高額な給与の原資は、当然高額なM&A仲介料です。
仲介料は各社様々なため、M&A仲介会社には複箇所問い合わせ、サービス内容や報酬内容を確認する必要があります。特に、最低報酬には注意しましょう。譲渡額の5%と思っていたが、実は最低報酬が設定されているケースが多々あります。そして、自社がどれくらいの価値があるか、これも複数のM&A仲介会社から取得しましょう。簡易評価は無料の場合がほとんどです。
また、国が定める「中小企業M&Aガイドライン」において、『セカンドオピニオン』を活用することが推奨されています。評価額、進め方、報酬額、など、他のM&A仲介会社や顧問税理士など、専門家に定期的に客観的なチェックを受けることで、「後悔する事業承継」は相当数減少することでしょう。なお、秘密保持契約は、このようなセカンドオピニオンは除外されており、契約違反となりませんので、ご安心ください。
税理士
都 鍾洵
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