(※写真はイメージです/PIXTA)

年収が高かった、退職金が多い、貯蓄がある……といった理由で、準備をせずに定年をむかえると、たとえ現役時代収入が十分にあっても、年を取ってから破産する事態になりかねません。Aさん(63歳)は、定年前に1度牧野FP事務所の牧野寿和CFPのもとを訪れ相談していたのですが、「定年退職」の開放感から支出を減らせなかったようで……。Aさんの事例をもとに、老後必要な資金額と準備方法、60歳以降での家計改善策についてみていきましょう。

老後の生活費の準備は、「退職後」では遅い

人生100年時代といわれる昨今。老後の生活費は、年金生活に入る前に準備しておくことが大切です。その理由は、[図表1]を見ると明らかです。

 

出所:厚生労働省「家計調査報告(家計収支編)2022年(令和4年)平均結果の概要」をもとに筆者作成。
[図表1]世帯主50歳以上の2人以上世帯の毎月の家計収支 出所:厚生労働省「家計調査報告(家計収支編)2022年(令和4年)平均結果の概要」をもとに筆者作成。

※ 税金や健康保険などの社会保険料のこと。

 

この図は、世帯主が50歳以降65歳までは勤労、65歳以降は無職という2人以上の世帯における、家計収支の平均値を表したものです。

 

上から4段目の「家計収支」を見るとわかるように、勤めているあいだは家計に余裕があります。しかし、65歳以降主な収入源が年金となった途端、毎月の家計収支は赤字となります。

 

いまの時代、もらえる年金額は現役時代の給与よりも少ないことのほうが多いため、働いているうちに老後資金を準備しておくことが非常に重要です。なお、老齢厚生年金の平均受給月額は14万4,982円、老齢基礎年金のみの平均受給月額は5万6,316円となっています
※ 厚生労働省「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」より。

「老後破産」の可能性を高める“年金の谷間” 

企業や官公庁の定年退職の年齢は60歳から65歳になり、今後は70歳になろうとしています。

 

※ 2013年に施行された「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)」で、2025年4月から「65歳までの雇用確保」が義務づけられ、さらに2021年4月に施行された「改正高年齢者雇用安定法」で、企業に65歳から70歳までの就業機会を確保するための施策を講じることが努力義務となっている。

 

2025年4月からは65歳までの雇用確保が義務化するとはいえ、定年の年齢は現状、60歳以降であれば会社が自由に定めることができ、定年が60歳のままである企業も少なくありません。「定年を60歳とし、それ以降65歳までは再雇用」という雇用形態の企業もあります。

 

そのため、[前掲図表1]が示すように、60歳以降は働いていても収入が減少する傾向にあります。

 

一方で、公的年金の受給開始は65歳です。つまり、ここで問題となるのが、60歳から65歳の“年金の谷間”の過ごし方です。

 

この“年金の谷間”は、それ以降の生活設計をするにも大切な時期です。もし、60歳で完全リタイアする場合、それ以降65歳で公的年金を受給するまで、退職金と預貯金を取り崩して5年間生活しなければなりません。

 

「退職金もたっぷりもらったし、預貯金も十分にあるから大丈夫だろう」といった安易な判断をし、働いていたときと同じような家計支出を続けると、あっという間に生活資金が乏しくなります。早ければこの“年金の谷間”期間に家計破綻する事態にもなりかねません。

 

この60歳~65歳の5年間の支出額は、[前掲図表1]をみると606万4,800円となっています。

 

もちろん家計収支は家庭ごとに異なりますが、この606万4,800円に65歳以降の赤字額864万4,320円を加えると、夫婦が100歳まで生活するためには、1,470万9,120円必要だということになります。

 

したがって、定年だからといって60歳で完全リタイアすると、その後予想以上のスピードで「老後破産」に陥る可能性が少なくないのです。

 

 

次ページ“年金の谷間”で贅沢三昧…Aさんの「拭えぬ後悔」

※プライバシー保護の観点から、登場人物の情報を一部変更しています。

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