(※写真はイメージです/PIXTA)

年齢を重ねればだれもが懸念する「介護リスク」。介護者の多くは家族だが、親の介護のために子世代が資産形成の機会や、資産そのものを失うケースもあり、由々しき問題だ。施設への入居を渋る親世代も珍しくないが、入居したからといって、それで安泰とは言い切れないこともある。実情を見ていく。

75歳を超えれば、否が応でも増加する「介護リスク」

現在の日本において、65歳以上人口は3,624万人。総人口に占める割合(高齢化率)は29.0%にのぼる。また75歳以上人口は1,936万人で、総人口に占める割合は15.5%だ。今後は高齢化率も、2030年には30.8%となり、2050年に37.1%にまで上昇すると推測されている。

 

ここで懸念されるのが介護リスクだ。内閣府『令和5年版高齢社会白書』によると、要支援・要介護認定者は668.9万人となっており、そのうち、要介護1以上は480万人、要介護3以上は230万人、要介護5は57万人だ。要介護認定を受けた高齢者の割合は、75歳以上になれば23.4%と4人に1人の水準に至る。

 

要介護者等から見た主な介護者の続柄だが、およそ7割が家族や親族となっており、事業者はわずか12.1%に過ぎない。

介護される親の呆れた言い分

75歳で要介護になった場合、介護を担う子どもはおそらく50代後半あたりだろう。厚生労働省の調査によると、50代後半のサラリーマンの平均給与は月収で41万円、年収で674万円程度だ。ちょうど会社員人生において、給与額がピークとなる時期と重なっている。

 

住宅ローンの返済のめどが立ち、子どもも大学を卒業して独立するタイミングだ。本来なら、自身の老後生活のため、資産形成にラストスパートをかけ、「最後のひと稼ぎ」をするチャンスとなる。

 

だが、そんな折に親の介護問題が降りかかると、子どもの人生設計は大きく狂ってしまう。介護と仕事との両立は簡単ではなく、状況によっては、子どもを介護離職させたうえ、子どもの老後資産まで親が食いつぶすことにもなりかねない。

 

東京都在住の50代会社員の男性、山田さん(仮名)に話を聞いた。

 

「80代の父は典型的な昭和の男で、周囲は自分に尽くして当たり前、という考え方の人です。大手企業のサラリーマンだったので、それなりに資産はありますが、〈家族がいるのになぜ施設に行かなければならないのか〉と強硬で、本当に大変でした」

 

「老老介護で母が面倒を見ていましたが、介護していた母のほうが先に亡くなってしまったのです。それで今度こそ父を施設に入れようとしたのですが、〈長男の嫁がいるじゃないか!〉といって聞かず…」

 

必死で説得し、なんとか施設に入所してもらったが、一時は奥様と離婚しそうになるほど家庭内がギクシャクしてしまったそうだ。

 

同じく50代の会社員女性、鈴木さん(仮名)は、70代後半の要介護の母親の言動にあきれてしまったと話す。

 

「父を亡くしたあと、世田谷の実家に兄一家が戻ってきて、母と同居していたのですが、兄家族の家事を一手に引き受けていた母が転んで要介護になったところ、兄嫁から〈うちでは面倒見きれない〉と連絡がありました」

 

その後、子どものいない鈴木さん夫婦のもとに母親が送り届けられてきたという。

 

「母はメソメソ泣くばかりで、最初はつらい思いをしたのだろうと同情していましたが、話を聞けば〈お兄ちゃんと離れて寂しいけれど、迷惑をかけられないから、あなたお願い〉だそうですよ。私には迷惑をかけていいってことですかね。そういえば、昔からいつもそうでした。私に面倒を見てほしいと泣きつかれましたが、〈悪いけど老人ホームに入ってね〉といって、入所してもらいました」

老人ホームの費用、「年金で賄えればベスト」なのだが…

山田さんや鈴木さんのような話が聞かれる一方、親世代も子世代には負担をかけたくないと考え、自ら老人ホームへの入居を希望する親も多い。

 

厚生労働省の資料によると、民間の施設である「有料老人ホーム(サービス付き高齢者向け住宅を除く)」は、2019年、全国で1万4,118件、利用者は54万人となっている。公的な施設の「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム=特養)」は全国に1万0,502件で、利用者は60万人を超える。老人ホームを終の棲家として選ぶ高齢者は非常に増えているのだ。

 

安価な費用で利用できる特養は、家賃の前払いにあたる「入居一時金」は基本的にゼロで、月額利用料は4万~6万円程度。そのほかは理容代や生活雑費が月1万~2万円程度かかるだけだ。そのため人気が高く、入居するのはなかなかむずかしい。

 

一方、民間の有料老人ホームの費用だが、入居一時金は0~数億円と幅かなりの幅がある。そのなかでは、30万~40万円程度の施設が多いようだ。また月額費用は15万~20万円程度が相場で、サービスによって違いがある。また、施設によって実費となるものに違いがあるため、入居前の確認は必須である。

 

入居費用は入居者本人が年金と貯蓄で賄うケースが多い。厚生労働省の調査では、厚生年金受給者の平均年金額は65歳以上の男性で月17万円、女性で10万円。この範囲内で月額利用料が賄うことができればベストだが、もし不足する場合は、貯蓄を取り崩すことになる。施設への入居期間は平均5~6年程度なので、そこから逆算したうえで入居可能な施設を選ぶことになる。

 

80代の平均的な年金額の男性なら、年金の手取りは月14.5万~15万円程度。貯蓄は十分とはいえないが「年金だけで月額利用料を賄える」と踏んで老人ホームへ…というケースもあるだろう。しかし、すべてをギリギリで回そうとすると、想定外の問題に直面することがある。

 

真っ先に考えられるのが、費用のオーバーだ。

 

株式会社TRデータテクノロジーが410社、6,254ヵ所の老人ホームを対象に行った調査によると、昨今のインフレを受け、4分の1にあたる96法人2,496施設で値上げを実施しているという。

 

サービスである以上、値上げは致し方ないが、それを賄える年金の増加がある可能性は低く、シミュレーションから大きく外れるリスクもあるのだ。

 

そうなれば、子世代が賄うよりほかない。

 

しかしながら、老人ホームの費用が払えなくなったら、新たに予算内の施設へ転居するのも選択肢だ。施設のなかには入居期間によって一時金が返金してくれるところもある。

 

だが、年齢を重ねた人生終盤、家族の元を離れ、施設を転々とし…というのはなかなかの負担だといえるだろう。

 

それを防ぐためには、親世代、子世代とも、とにかく資産形成に努めるよりほかないのかもしれない。

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