「国債増発」承認によって中国経済はどう変化するか
2|中国政府は国債の増発を決定。ただし、景気押し上げの効果は現時点では未知数
9月までの情勢を踏まえ、通年の成長率目標(+5%前後)達成のハードルは下がった一方、上述の通り不動産市場の低迷は長期化する可能性が高い。そうしたなか、10月24日に閉会した全国人民代表大会常務委員会第6回会議で、国債増発が承認された。
中国政府の景気下支えはこれまで金融緩和が中心であったが、財政面でも下支えを強化する動きがでてきた。翌25日に開催された財政部による記者説明によれば、今回発行されるのは1兆元の特別国債で、その主な用途は、今年に入り多発した自然災害による被害に関する復興支援や防災関連インフラ強化などだ。
23年中に半分の5,000億元を発行し、24年に入ってから残り半分の5,000億元を発行する予定とされている。
今回の国債増発に伴い、今年の財政赤字の対GDP比は、当初予算の3%から3.8%に拡大する見込みだ(図表-17)。これは、コロナ対応で特別国債が発行された2020年の水準(3.7%)をも上回る規模となる。
財政赤字の対GDP比が長らく3%以内の水準に抑えられてきたこと、年の途中における国債増発が1990年代後半以来の出来事であること等から、これまでの財政運営のトレンドに対して特徴的な対応であり、景気下支えのスタンスは従来に比べて強まったといえる。
インフラ投資を通じた需要拡大や乗数効果が期待できることから、足元で力強さを欠く中国経済にとって好材料といえる。
もっとも、2023年は残り2カ月をきるところであり、実際の効果発現は2024年に入ってからになると見込まれる。また、今回の追加財源がすべてインフラ投資に用いられるとは限らないため、景気押し上げの程度は、GDP比0.8%という規模よりも少なく見積もる必要があるだろう。
さらに言えば、インフラ投資の財源における中央政府の予算は一部であり、それ以外には、地方政府の歳入(税収や土地使用権売却収入)や地方政府傘下の融資平台による銀行借入や債券発行を通じた資金調達が大きな役割を果たしている。
地方政府や融資平台の資金繰りが厳しいことに加え、今後、地方政府債務リスクの解消にも本腰を入れて取り組むことが予想されるなか、地方政府や融資平台の資金繰りが想定以上に悪化する可能性がある。
そうなれば、国債増発の効果が相殺されてしまう点にも留意が必要であり、地方政府債務リスク対策や金融政策など他の政策の方針と合わせて、今後その効果の有無を評価する必要がありそうだ。
なお、今回の財政出動では、上述のように従来の資金調達で主役であった地方政府や融資平台ではなく、中央政府が財源確保の役割を担うことになった。
この背景には、自然災害対応という用途の観点もさることながら、土地収入の減少や隠れ債務の問題により厳しい財政状況にある地方政府に追加の負担を求めることは難しいとの判断もあったと考えられる。
隠れ債務も含めて状況が悪化する地方財政に比べ、中央政府だけでみれば財政は依然健全であるため(図表-18)、合理的な対応といえる一方で、景気対策の財源という観点で最後の番人ともいえる中央政府が乗り出したのは、それだけデレバレッジを巡る状況が厳しいとみることもできる。
今回の国債増発は、今後の中国における財政運営の在り方という観点でも注目に値するイベントといえよう。
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