(写真はイメージです/PIXTA)

2022年、中国における社会保障に関する経費は年間およそ6兆元(120兆円)に達し、習近平政権以降の10年間で3倍に膨張しているといいます。本稿では、ニッセイ基礎研究所の片山ゆき氏が、地方財政や分税制という視点から中国の社会保障の現状を解説します。

赤字が続く地方政府の財政…分税制の課題が表面化

中国は1994年に財政収入・徴税責任などに関する中央と地方政府の分担を明確化する分税制を導入している(孟2017)(※3)。

 

これによって中国の国家財政は中央財政と地方財政からなり、中央政府と地方政府がそれぞれの役割分担に応じて税財源を中央と地方に区分している。この分税制の下、中央政府が主に国家の安全保障、マクロコントロール等に関する分野の歳出を担い、地方政府が主に地域の管理、地域社会・地域経済の発展に関する分野の歳出を担っている(※4)。

 

つまり、日々の生活に直結する社会保障については主に地方財政が担っており、加えて、中央財政から地方財政に一定額が財政移転される形をとっている。

 

2022年の社会保障の運営における中央からの財政移転と地方による財政支出の状況をみると、全体の68.1%が地方による財政支出であることがわかる(図表7)。

 

出所:財政部決算資料より作成
[図表7]社会保障制度の運営における中央と地方財政の支出状況(2022年) 出所:財政部決算資料より作成

 

つまり、社会保障制度の運営・維持は地方財政の状況、特に実質的な運営を行う「市」の財政に大きく依存していることになる。しかし、分税制の課題としては、中央から地方への財政移転の際に上位の行政単位(この場合は省など)の予算確保が優先され、それよりも下位の行政単位が苦しい状況に置かれてきた点にある。

 

下位の行政単位はこれを補填するために土地使用権の売却収入によって行政運営の財源を確保してきた。国の規制によってこの土地使用権売却収入が急速に減少している現在においては、市など下位の行政単位の財政は更に厳しい状況にある。

 

よって、2022年は中央政府が下位の行政単位に財政移転を直接行うことができる「特殊移転支出」を実施している。これは新型コロナウイルス禍にあった2020年に財政が困難な行政単位に就業支援や年金給付の確保など民生政策を目的として新設された支出方法である。これによって2020年は5,992億元(決算ベース)が移転されたが、2022年はそれよりも増額した8,534億元が別途移転されている。

 

地方政府の財政問題は、土地使用権売却収入の減少や地方政府傘下で資金調達を行う融資平台を通じた債務問題もあるが、根本的には下位の地方政府に大きな負担がかかるという分税制の構造的な課題にも留意が必要である。

 

また、地方政府の一般会計の赤字額について名目GDPに対する比率をみると、東北三省、特に吉林省と黒龍江省の赤字が大きい状況がわかる(図表8)。

 

出所:CEICより作成
[図表8]地方政府における一般会計赤字の状況 出所:CEICより作成

 

吉林省、黒龍江省はいずれも高齢化率が高く、年金などの社会保障財政も厳しい状況にある。上掲の特殊移転支出は暫定的な措置であり、地方政府の財政基盤をどう立てなおすのか、分税制が抱える課題をどう改善していくのかが重要となる。

 

※3:孟健軍(2017)「中国における財政制度に関する研究―中央と地方の関係の再構築に向けて」経済産業研究所、RIETI Discussion Paper Series 17-1-030。

 

※4:自治体国際化協会(2021)「中国の地方行財政制度」、p.56。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年10月17日に公開したレポートを転載したものです。

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