(※画像はイメージです/PIXTA)

現役医大生時代、6年間にわたり医学部受験生を指導していた綿谷もも氏。綿谷氏は、早期から志望校対策に取り組むメリットはなく、「やればやるほど合格可能性が上がる」というものではないとアドバイスします。綿谷氏が現役医大生時代に刊行した著書『医学部受験バイブル 現役医大生からの贈り物』(監修:高梨裕介氏)より一部を抜粋し、志望校対策における注意点を見ていきましょう。

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過去問に着手するのは「全教科全分野を習得してから」

「早めに志望校を決めて過去問演習をした方がいい」とアドバイスを受けた方もいらっしゃると思います。しかし、実のところ早い時期から志望校対策をするメリットはありません。

 

まだ全教科の基礎が習得できていない場合、大学の過去問にチャレンジしても解けない問題がたくさん出てきてしまいます。この状態で問題に取り組んでもあまり学習効果はなく、解き直しをしても答えの丸暗記で終わる可能性が高いです。

 

せっかく時間をかけて過去問に取り組むのなら、全教科の基礎を習得し終わってから演習した方が効率がよく、弱点の分析や試験の解き方を練習する上で有意義に活用することができます。

 

そして、早い時期からの志望校対策はメリットがないどころか、「基礎の習得がおろそかになりやすい」というデメリットがついてきます。

 

過去問演習に時間を使いすぎてしまうと、基礎の習得にかける時間がどんどん少なくなってしまい、結果的に理科や数Ⅲの習得が間に合わなくなるという失敗に繋がります。

 

順番として、まずは全教科全分野の基礎を抜けなく習得し、それができてから過去問演習に入るのがよいでしょう。当塾では、基礎の習得が一通りできている受験生に対し、例年9月頃から過去問演習を課題に組み込んでいきます。

志望校対策は合否に影響しない

指導する中で徐々に分かってきたことではありますが、志望校対策は医学部合格に必須ではありません。

 

志望校対策が合否に大きく影響するのであれば、「過去問演習の有無」や「過去問演習の回数」によって合格率に差が生まれるはずですが、実際のところ、そのような傾向は全く見られません。

 

わかりやすい例としては、複数の大学を受験する予定の現役生で、時間の都合で過去問演習をこなせる大学が限られていた卒業生がいました。私立御三家の過去問演習は一度も行わずに受験に臨みましたが、結果として、国公立・私立御三家を含む複数の医学部に合格できました。

 

意外に思われるかもしれませんが、このように過去問演習を行わずに臨んだ大学に合格した卒業生は決して少なくありません。

 

難関医学部の中には、全教科とも難易度が高く、出題が特徴的な大学も多くありますが、合格するために特別な対策が必須という訳ではありません。

 

しっかりと実力がついていれば過去問演習をしなくても合格できますし、実力がついていない場合はいくら特別対策を行っても合格することはできないと言えるでしょう。

では、志望校対策にどれくらい時間をかければいいのか?

これまで説明してきた通り、志望校対策は「やればやるほど合格可能性が上がる」というものではありません。過去問演習は基本的には1年分行い、大まかな出題形式や傾向をつかんでおけば十分です。

 

過去問演習よりも全ての科目の網羅的な復習をする方が優先順位は高いため、それ以上の演習回数は各教科の復習状況とのバランスをみながら決めていくとよいでしょう。

 

あまり知られていない注意点としては、志望校に特化した対策に集中してしまうと傾向が変わった時に柔軟に対応できず、パニックになる危険性があります。

 

医学部受験の出題を分析すると、年度によって難易度や試験形式がガラッと変わることが頻繁にあります。

 

例えば、前年度までは問題の難易度が低かったのに、急に難問中心の出題となるといったケースです。

 

この場合、過去問をやり込んで「〇〇大学の数学は簡単だから得点源にしないと!」と思い込んでいる受験生ほど危険です。問題が解けない時、「解けなければいけないはずなのにどうしよう…」と自分を追いつめてしまい、不要な焦りが生じてしまいます。

 

また、試験形式が急に変わることもあります。大問の数が減った、増えたといった小さな変更はもちろんのこと、ある年からいきなり自由英作文が出題されるようになった、という事例もあります。

 

以前の記事で紹介した通り、試験本番で最も大切なのは試験の解き方を徹底し、失敗するリスクを減らすことです(⇒関連記事:【医学部】「本番に強い受験生、弱い受験生」の決定的差は〈試験の解き方〉である…元医学生講師の“するどい分析”参照)。正しい試験の解き方を身につけておくと、問題形式や難易度に関わらずあらゆる試験に柔軟に対応できるようになります。

 

指導経験から、全ての試験に対応可能な試験の解き方を習得することは、特定の大学への最適化を行うよりもはるかに効果的だということがわかっています。

学校や予備校が志望校対策を勧めるワケ

上記の通り特別な志望校対策や、早い時期からの過去問演習は医学部合格のために必須ではなく、むしろ逆効果になってしまうことも多いです。しかし、学校や予備校では志望校対策を勧められることがあると思いますので、その点について解説します。

 

まずは学校の先生についてです。学校の先生は「過去に医学部に現役合格した人がやっていたこと」をそのまま勧めることが多い印象です。「医学部に現役合格した卒業生が早い段階から過去問演習をやっていたから、医学部受験生はそれを真似するとよいだろう」という考えですね。

 

ここで考えておきたいのは、「相関関係」と「因果関係」の話です(⇒関連記事:【危険】「この勉強法で医学部に受かりました!」←この“合格体験記”を鵜呑みにしてはいけない理由…)。医学部に現役合格する人の中には、早期から基礎が完成されており過去問演習に入る余裕があるという受験生が多い傾向にあります。早い時期から過去問演習を行ったから合格できたのではなく、早い段階で受験に対応できる基礎力がついていたから合格できた、と捉える方がよいでしょう。

 

次に予備校についてです。多くの予備校では、受験が近づくと「〇〇大学特別講座!」という大学別対策講座が開設されます。これは、大学別対策講座を行う明確なメリットがあるためです。

 

1つ目は、ビジネス的に利益が出る点です。夏期講習などの短期講習と同じく、通年の授業料プラスアルファでの収益となります。複数の大学を受験する生徒さんの場合、受験校全ての大学別講座を申し込むとそれだけでかなりの金額となります。

 

2つ目は、受講生の実績を合格実績に反映することができるためです。夏期講習といった短期講座や、大学別対策講座の受講者も合格実績に入れている予備校は少なくありません。

 

大前提として、医学部受験は短期間の詰め込みや直前の志望校対策で何とかなるほど甘くありません。

 

本当に短期講習や志望校対策が特効薬のように有効なのであれば、1年間かけて通塾する必要がありません。わざわざ新しい生徒を募集しなくても、すでに通っている生徒さんに全力でその対策を施せばどんどん医学部の合格者が出るはずです。

 

特別講習に魔法のような力がある訳ではなく、予備校のメリットのために実施されていると考えるのが自然だと思います。

 

 

【執筆】綿谷 もも

医学部医学科卒。数学が大の苦手で、高3の冬に受けた模試では偏差値39を取ってしまうほど。エースアカデミーで1年間浪人し、センター試験本番で90%以上を達成、関東の難関国立医学部、難関私立医学部に合格。

医学部入学後はエースアカデミーの医学生講師として6年間受験生を指導し300人以上の医学部合格に貢献。その経験をもとに、医学部在学中に書籍『医学部受験バイブル 現役医大生からの贈り物』を執筆、出版。将来の夢は小児科医。アイドルと猫が好き。

 

【監修】高梨 裕介

医学部予備校エースアカデミー 塾長、医師

医師/大阪医科大学卒、初期研修修了後に創業。

中学受験経験(灘、東大寺、洛南、洛星中学に合格)。

自身の医学部受験の反省を活かし、350名以上の医学部合格者を指導。医学部合格のためのよりよい指導をより安く提供することを理念としてエースアカデミーを設立。

※本連載は、綿谷もも氏の著書『医学部受験バイブル 現役医大生からの贈り物』(高梨裕介氏監修、幻冬舎ルネッサンス)より一部を抜粋し、記事化したものです。

医学部受験バイブル 現役医大生からの贈り物

医学部受験バイブル 現役医大生からの贈り物

綿谷 もも(著)
高梨 裕介(監)

幻冬舎メディアコンサルティング

【医学部に「最短距離」で合格する方法、教えます。】 現役医大生(※書籍刊行当時)の筆者が、自身の医学部受験経験、塾の講師として医学部受験生を指導してきた経験をふまえて、医学部受験に「本当に必要なこと」を徹底解…

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