(※写真はイメージです/PIXTA)

平穏な日々を送っているある女性は、親族を名乗る見知らぬ男性からの連絡により、いきなり複雑怪奇な相続の当事者の立場に立たされてしまいます。巻き込まれないよう相続放棄したいと考えますが、それも大変な手間がかかるとわかり…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、事例をもとに解説します。

名前も知らない親族から「相続手続きに関するお願い」が…

今回の相談者は、40代専業主婦の中村さんです。相続の件で、非常に困った事態が起きていると、筆者の事務所に駆け込んでこられました。

 

「先日、兄から突然電話があり、実母の相続の件で、親族を名乗る人から突然連絡があったというのです」

 

中村さんは兄と2人きょうだいで、実母は中村さんが0歳、兄が2歳のとき死別しています。その後父親は再婚し、中村さんと兄は後妻に育てられました。中村さんと兄にとっての母親は後妻であり、実母の記憶はありません。

 

「兄の話によると、実母の祖母名義の土地があり、実母の弟さんが相続するため、遺産分割協議に協力してほしいというのです。兄からは、〈山田さんという方から、書類が送られてくるから〉と聞いていて、先日受け取ったのですが、中を見てびっくりで…」

わずか5坪の土地なのに、相続人が36名!?

これまで一度も会ったことがない、叔父という人からの手紙によると、実母の祖母の土地は港区麻布にある、わずか5坪ほどのところだといいます。ところが、同封されている家系図をみたところ、子ども、孫、ひ孫を合わせて相続人は36人もいます。

 

「兄は、電話で叔父だという人と話したのだそうです。なんでも、都内一等地の狭い土地を巡っていろいろ大変なことになっているらしく、なんとかして兄と私に引き下がってほしいという思いが、ヒシヒシと伝わってきたといっていました」

 

「亡くなった母親は顔も覚えていませんし、叔父といっても他人同然で、かかわりたくありません。さっさと相続放棄したいのですが…」

「相続放棄」にも、かなりの手間&費用がかかる

打ち合わせに同席していた提携先の司法書士は、中村さんの話を聞くと「それはちょっと大変かもしれませんね」と前置きして、下記のように説明しました。

 

①相続放棄するには、亡母の戸籍を全部集めて、家庭裁判所に申述することになる。しかし、亡母の戸籍を集めるにも時間と費用がかかり、家庭裁判所への書類の提出にも手間がかかる。

 

②自分で手続きすれば費用は抑えられるが、司法書士や弁護士に手続きを依頼すると、それなりに費用がかかる。

 

このような相続に巻き込まれては、まさに地獄のような状況になりかねません。そこでアドバイスしたのは「相続分の譲渡」です。これにより、自分の相続の権利を特定の相続人に譲渡するようにすれば、相続するものはなく、実質的に相続放棄と同じことになります。その方法なら、「譲渡証書」に実印を押印し、印鑑証明書と戸籍謄本を添付することで手続きができます。

 

中村さんは「それはいいですね」といったあと、少し考えこんでしまいました。

 

「手続きについてはわかりました。でも、印鑑証明や戸籍謄本を、他人同然の親族に託すってことですよね…。兄に相談してみます」

 

中村さんはそのようにいうと、事務所を後にされました。

叔父が依頼している司法書士へ、すべて託すことに

後日、中村さんから連絡が入りました。中村さんの兄が改めて叔父に電話で確認をした際、諸々の手続きは司法書士に依頼しているとのことでした。

 

印鑑証明書などは、登記の専門家である司法書士に送付すれば安心です。そのため、まずは司法書士の連絡先を聞いて、必要書類を送付するようにアドバイスしました。

 

その後、中村さんと兄は叔父の依頼先の司法書士と連絡を取り、相続分の譲渡の手続きを無事、完了することができました。

 

「今回の件、まさに青天のへきれきで驚きましたが、本当に助かりました」

 

後日、報告の電話をくれた中村さんは明るい声で感謝の言葉を伝えてくれました。

 

相続登記を4代さかのぼったら相続人が36人も見つかったという大変なケースでしたが、今後は登記法が変更され、相続後3年以内に相続登記をすることが義務付けられましたので、こうしたケースは減っていくと思われます。とはいえ、もし自分とかかわる相続問題で、中村さんのような状況が明らかになった場合は、早めに対処することが重要です。

 

「財産を受け取らない=相続放棄」と認識している方は多いと思いますが、今回のように相続人が多い場合は、相続の権利譲渡という方法が有効です。

 

また、これらの手続きにあたっては、印鑑証明書や戸籍謄本といった重要な書類が必要ですが、親族とはいえ、これらの個人情報を渡すことに抵抗があるケースもあるでしょう。ですが、司法書士等の専門家が手続きをしているなら、個人情報の扱いへの懸念はなくなり、安心だといえます。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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