(※写真はイメージです/PIXTA)

母を亡くした50代のきょうだいは、空き家となった実家を手放すことにしました。無事に買い手がついて喜んだのもつかの間、両親が家をいくらで買ったのかわかりません。そのため、多額の譲渡税が課されることが判明し…。何か手立てはないものでしょうか? 相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、事例をもとに解説します。

相続発生…実家の売却を検討→すぐに買い手が見つかる

今回の相談者は、50代会社員の山本さんです。父の死後、ひとり暮らしをしていた母親が亡くなったため、相続について相談したいと、筆者のもとを訪れました。

 

相続人は山本さんと弟の2人で、すべて等分に分けることで合意ができています。

 

山本家の財産は母親が暮らしていた実家不動産と預貯金で、相続税はかからない範囲です。2人とも社会人になってすぐ親元を離れており、いまはそれぞれ自分の家族と暮らす自宅を保有しています。今後も実家に戻る予定はないとのことなので、筆者と提携先の税理士は、実家を売却して遺産を分割することを提案しました。

 

「私と弟が子どものころは、父の会社の社宅に住んでいました。われわれが独立したあと、父は母と2人で暮らすため、いまの家を購入したのです」

 

 

「母はあの家にすごく愛着を持っていて、こまめに手入れをしていました。内装なども自分好みにしつらえていましたが、私も弟も自宅がありますので…。母には悪いですが、売却したいと思います」

 

土地は50坪あり、相続税評価はおよそ900万円。建物の固定資産税評価は200万円ですが、すでに30年以上経過しています。

 

しかし、母親が大切にしてきた家はきれいで、まだまだ住める状況です。ドアノブにまでこだわりぬいた可愛らしい家ということもあり、土地の相続評価での売却の話がまとまりました。

 

山本さんの相談は、一度ここで完了となりました。

「父がいくらで購入したのか、サッパリわからなくて…」

それからしばらくして、再び山本さんから連絡がありました。

 

実家を売却することになれば、山本さんは来年、譲渡所得の確定申告が必要になります。ところが、税額を計算してみたところ、150万円以上にもなることが判明したというのです。

 

「父がどれほどの価格であの家を買ったのか、さっぱりわからないのですよ」

 

不動産の購入価格がわからない場合、売った価格の5%が取得原価になります。それ以外に引くことができる費用は、仲介手数料、片付け費用、相続登記の費用といったささやかなもので、売却価格のほとんどが譲渡益になってしまうため、課税額も高くなるのです。

 

筆者と税理士が登記簿を見たところ、2,500万円の抵当権が設定されていた記録があり、建売住宅の土地・建物を3,000万円程で購入しているようでした。しかし、改めて実家の書類を調べても、契約書等は見つかりません。

 

父親が購入したときの借入の記録があるにもかかわらず、契約書が見つからないばかりに、高い税金を払うことになります。しかし、アドバイスを求めた無料相談の税理士からも、問い合わせた国税庁からも「購入金額が不明なら、取得原価は5%」以外の説明を受けることはできなかったといいます。

 

「いくらなんでも、150万円は高すぎる…」

 

山本さんはうなだれました。

原価5%」意外の申告はできないものか?

自宅購入時の契約書はありませんが、借入した銀行の抵当権の設定額などから当時の時価、3,000万円程度で購入したことは明らかです。筆者は提携先の税理士とも協議し、土地の取得費を推計する方法のひとつとして「市街地価格指数」を使って譲渡税の申告をすることを提案しました。市街地価格指数とは、市街地の宅地価格の推移を指数化したものです。

 

それにより、今回譲渡した900万円より取得原価が高いことを示せれば、150万円の譲渡税はかからなくなる可能性が高くなります。

不動産譲渡税の申告は、修正できない点に注意

今回のような場合、最初から「市街地価格指数」を用いて譲渡所得の申告を行い、認めてもらうことが重要です。相続税等と異なり、修正申告できないからです。

 

土地の取得費がわからないことで、売却価額の5%を取得原価として計算・申告してしまったあとでは、いくら市街地価格指数を持ち出しても、税金は戻りません。

 

幸い山本さんは、売却手続きに入る前から筆者や税理士と譲渡税の申告の仕方について検討を重ね、「市街地価格指数」による取得費での申告という方針を固めていました。さらに、不動産評価についても不動産鑑定評価書をつけて説得力を高めるといった対策も取り、税務署からの否認のリスクを減らしています。

 

このような知識やノウハウの活用で、譲渡税の節税ができる見込みとなり、山本さんも安心されました。

 

とはいえ、不動産の売却はケースバイケースであり、購入価格が不明のケースのすべてにおいて「市街地価格指数」を添えれば税額が減らせるとはいえません。この点は、経験値の高い税理士等にしっかりと相談し、アドバイスをもらいましょう。

 

また、譲渡所得の申告には契約書か、それに代わる資料が必要です。とくに、不動産鑑定評価書は有力な判断材料となるでしょう。

 

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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