再開発で立退きを迫られることは、誰にでも起こり得る
今回ご紹介するのは賃貸業を営んでいるTさん(60代・男性)の事例です。
Tさんは首都圏のいくつかの駅前にビルやアパートを所有し、入居者からの家賃収入を得る事業を行っています。そのなかのAビルが、「第一種市街地再開発事業」の対象地域になりました。
再開発地域に不動産を所有する人たちは、2つの選択肢からどちらかを選ばなければなりません。開発の工事が終わったあとに、新しくできる建物の権利を取得して戻ってくるか? もしくは地区外に転出するか? です。
Tさんは突然降って湧いた話に迷いましたが、自身の年齢(60代)もあり、これを機にAビルを手放して所有物件数を減らし、老後は物件を管理しやすくしようと、「地区外転出」を選びました。
Tさんに提示された当初の立退料は2,058万円
市街地再開発事業にあたって、地権者と不動産開発事業者(デベロッパー)等から成る「再開発組合」が設立され、この組合の担当者が住民や各物件オーナーと個別に交渉を行います。
地区外転出を選んだTさんには、組合側から移転に伴い、必要となるお金として「立退料」が支払われます。
当初、組合から提示されたTさんへの立退料は2,058万円というものでした。
驚いたのはTさんです。
「2,000万円やそこらでは、テナントの移転費用や家賃収入がなくなる分の補填にもならない。立地もよく、まだ使えるビルを手放す代償の金額としては安すぎる」
と反論しましたが取り合ってもらえません…。
そうこうしているうちに、近所では閉店作業及び明け渡し準備を始める店舗が出始めました。組合側からは「期限までに立退かないと強制的に出ていってもらうことになりますよ」「立退料も、もっと少なくなりますよ」などと頻繁に立退きを急かす連絡が入るようになり、Tさんはすっかり困ってしまいました。
弁護士の介入で立退料が約13倍の2億7,323万円に
そんな時、知人の商店主から「うちは弁護士に相談したんだよ」という話を聞いたTさん。なんとかもう少し納得のいく金額にならないかと、当事務所へ相談に来られました。
立退料の金額は、次のような要素を総合的に検討して算出します。
- 所有権や借地権、借家権の対価としての補償(対価補償)
- 明け渡しや移転に際して生じる、移転費用や補償
- 仮住居や仮営業所のための費用
- 家賃の減収や営業の補償といった補償(通損補償)
これらを適切に見極めるためには、不動産関連の法律知識や過去の例を数多く知っている必要があります。
Tさんは、弁護士に組合との交渉を依頼し、弁護士から適正な立退料の金額を、根拠を添えて再開発組合に交渉。その結果、なんと当初の2,058万円から2億円以上も増額した2億7,323万円の立退料を手にすることができました。