日本が豊かになっていく過程で、顧客は商品の多様性を重視するようになり、従来の大量生産型ビジネスモデルでは厳しくなってきました。ある二代目社長は、主力商品の売り上げ低下をきっかけに、ライバルとして台頭してきた中国の商品を視察すべく現地の工場を訪れますが、目の前に広がるけた外れの光景に「これでは勝てない」と、大変な衝撃を受けます。

中国の工場を見た瞬間「これは勝てない」

起死回生の一手が見えない中、バターピーナッツの生産量が減って時間ができたこともあって、私は「中国に行ってみよう」と思い立ちました。百聞は一見に如かずといいます。果たして起死回生があり得るのか分かりませんでしたが、バターピーナッツ事業を苦しめている「敵」がどういう事業をしているのか見ることにより、何か打開策が浮かぶのではないかと考えたのです。

 

目指したのは、落花生の一大産地で、バターピーナッツの生産拠点にもなりつつあった山東省です。設備会社の紹介を通じて現地で工場を見学させてもらうことになりました。

 

結論から言うと、工場を見た瞬間に「これは勝てない」と感じました。私の会社は当時20名規模の中小企業で、工場の生産体制は、最大でも日産5トンです。一方、現地で見た工場は規模も生産量も桁違いでした。工場の向こうの端がかすんで見えるほど遠く、何台もの機械と百人を超える数の従業員が忙しく働いています。

 

さらに、同規模の工場地帯が地域にはいくつもあります。力の差は歴然としていましたし、勝負にならないことがひと目で分かりました。撤退しかない。早く次の事業を考えださないといけない。現地を見て、私はそう思いました。体験は大事です。現場の工場を見ていなければ、勝てるはずがない勝負を続け、経営がさらに悪化していたと思います。

目の前の仕事を「丁寧に、きちんとやる」という気づき

予定では、その他の工場も見学することになっていましたが、私はもう工場見学する意欲もなくなり、残りの旅程は近くを観光することにしました。調べてみると、バスで2時間ほど行ったところに孔子の生誕の地があります。

 

「せっかくだし、時間もあるし、何か学ぶことがあるかもしれない」

 

そんな思いで、世界遺産にも登録されている曲阜(きょくふ)という町を訪れることにしたのです。曲阜の町には、孔子の大きな石像、孔廟と呼ばれる祭殿、孔子の墓などがあり、孔子一色でした。そこで、ある言葉を目にします。

 

鄙事多能(ひじたのう)――鄙は、辺鄙(へんぴ) の鄙で、都市部から離れた田舎という意味があり、下品、洗練されていない、いやしいという意味もある漢字です。それが多能に通じると示しているのが鄙事多能で、孔子が自分のことをいった言葉なのだそうです。鄙事多能は、『論語』子罕(しかん)第九に出てきます。その内容は、次のようなものです。

 

若いころの私は、身分が低く、貧しかったため、些細でつまらないことでも何でもいろいろやりました。だから、いろいろなことができるようになりました。君子は多芸多能である必要はありません。誰にでもできる些細なことを、きちんとやることによって器用になるのです。

 

私はこの言葉に非常に衝撃を受けました。この時まで私は「経営者たるもの」「二代目として」「会社の成長のため」などと大上段に構えて、起死回生の一発逆転ホームランを打ってやろうと意気込んでいました。しかし、よく考えてみれば、特別なことができる人間ではありませんし、特段優れた能力もありません。ただの豆屋のせがれがやることは、ホームランを狙って大振りすることではなく、目の前の仕事を丁寧に、きちんとやることだと気がつきました。

 

技術を高め、工場をきれいにすること、従業員たちの考えをよく聞き、収支を細かく確認すること。それらにきちんと取り組んでいくと、ふとしたタイミングで事業のタネが見つかります。そのタネを丁寧に育てていくことが大事なのだと、この言葉を通じて気がついたのです。それと同時に敵地に乗り込む大切さも学びました。

 

 

池田 光司

池田食品株式会社 代表取締役社長

 

 

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