敷地の一部を河川敷が横切る「変形地」の活用事例

前回は、斜面地だからこそ、収益性の高い賃貸住宅を建築できた事例を見てみました。今回は、敷地の一角を河川敷が横切る変形地での建築事例を見ていきましょう。

区を相手に交渉——土地交換で変形地をフル活用

前回の続きです。Mさんの配偶者と次女が相続する見込みの土地は、東京・中野にある平坦地です。JR中野駅から歩いて数分と近く、賃貸住宅としての立地条件は申し分ありません。そこでは、もともと木造のアパートを経営していました。

 

新しい賃貸住宅に建て替えるに当たって、一つ課題がありました。土地の形状は平坦で整形ですから良かったのですが、敷地の一角を河川敷が斜めに横切っていたのです。その部分は、地元の中野区が所有・管理しています。したがって、この敷地に建物を建てる場合には、この河川敷の上を避けて建てなければなりません。土地をフルに活用することができないという課題を抱えていたのです。

 

このままでは土地の価値を十分に生かせません。そこで、課題の解消に向けて土地交換を区に持ち掛けることにしました。

 

ちょうど都合のいいことに、この土地が接する南面の道路が建築基準法上の42条2項道路であり、この方の私道だったのです。私道ではあっても、建築基準法上の道路ですから、そこを自由に利用するわけにはいきません。どうせ利用できない土地なら、手放しても問題はありません。そこを手放す代わりに、利用したくても利用できない土地を手に入れられるなら、それに越したことはありません。

 

交渉当初は河川敷の土地の買い取りを提案されましたが、最終的には私道部分との交換に応じてもらえました。これによって土地のフル活用が可能になって、賃貸住宅を3階建てで計画することができるようになったのです。

 

ここでは天空率という指標を採用することで斜線制限の緩和を受けることができました。隣地や道路との間に余裕のない地域では通常、建物の高さが斜めに抑えられてしまいますが、その緩和を受けることで建物の形をすっきりとしたものにできたのです。

 

天空率とはある地点から建物を見上げたときに視界の中で天空の占める割合を指します。斜線制限を受けた場合と同じ天空率を確保できるなら、斜線制限から離れて自由に建物の形状を決められるのです。それが、天空率の採用による斜線制限の緩和です。土地交換と天空率の活用で3階建ての建物をすっきりした形でつくることができた―それが、この土地の活用ポイントの一つです。

敬遠されがちな1階が人気を博した理由とは?

計画上のポイントが、もう一つあります。それは、1階部分の各住戸の入り口を前面道路から直接出入りするスタイルにしたことです。通常は建物全体のエントランスを入って、共用廊下を抜けて各住戸の玄関に向かいます。それがここでは、前面道路沿いに戸建て住宅のように各住戸の玄関が並んでいて、そこから直接アプローチするのです。

 

1階の住戸は玄関に広めの土間を設けています。賃貸住宅の玄関というと通常は狭く、たとえ一人住まいでもたたき部分は靴で埋め尽くされてしまいがちです。ところがここでは、玄関土間にロードバイクのような高価な自転車を置いておくこともできます。盗難の心配がないうえに、お気に入りのものを手元に置きながら暮らせるわけです。

 

通常、1階住戸はとりわけ女性には防犯上の理由から敬遠されがちです。しかしここでは、和風テイストの「粋な黒塀」に覆われた道路面から直接出入りする造りが人気を呼び、女性からも喜ばれています。道路に面してオープンな造りが、かえって第三者の目が入る余地があることから、安心感につながっているのかもしれません。

 

2階と3階は通常のように、1階エントランスから出入りします。2階の住戸はスタンダードな1Kです。コンパクトながら充実した設備と使いやすさを意識しました。3階の住戸はロフト付きで、周囲の吹き抜けが開放感のある住戸を生み出しています。「イリスコート」と名付けられたこの賃貸住宅は、中野という土地柄もあって単身者向けです。立地条件の良さに加え、意匠性の高い外観とユニークな間取りが、デザイナーズマンションとしての人気につながっているようです。


【建築概要】

 

●イリスコート


所在地:東京都中野区
主用途賃貸住宅
構造・階数:鉄筋コンクリート造、地上3階
敷地面積:210.35㎡
延べ床面積:356.51㎡
総戸数:14戸
間取り:1K・ワンルーム・1K+ロフト・ワンルーム+ロフト
住戸面積:21.55~27.62㎡
設計:環境建築設計
施工:村本建設
完成:2009年12月

本連載は、2014年6月12日刊行の書籍『変形地の価値を高めるマンションづくり』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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連載建築デザインの力で「変形地」の価値を高める方法

株式会社環境建築設計 代表取締役
株式会社六耀 代表取締役 

早稲田大学理工学部建築学科卒業。「環境と人との接点を意識し心を配ること」を基本に、土地活用企画、分譲・賃貸マンションの企画・設計・施工管理、賃貸マンションの監理、建て替え、大規模修繕、コンサルティングなどを手がけ、35年間で300弱の竣工物件の実績を持つ。

著者紹介

変形地の価値を高める マンションづくり

変形地の価値を高める マンションづくり

宮坂 正寛

幻冬舎メディアコンサルティング

別荘地のような斜面地、一角に他人の土地を挟む変形地、奥まった場所にある旗竿地・・・。 活用をためらってしまうような条件の悪い土地を活用するためには、その土地の潜在価値を引き出すことが重要です。本書では、そのため…

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