前回に引き続き、斜面地だからこそ収益性の高い賃貸住宅を建築できた事例を見ていきます。

斜面地は「地下を掘らずに」地下室が作れる!?

前回の続きです。

 

鶴見の土地にはもともと規模のそう大きくない築40年ほどの木造アパートと築80年ほどの一戸建て貸家が建っていました。通常であれば、この斜面地には冒頭に記したように、同程度の規模のアパートを建てることになるのでしょう。ところが、こうした斜面地だからこそ利用できる手法が一つあります。

 

それは、住宅地下室の容積率不算入という規定をうまく利用する手法です。住宅用途に充てる地下室に限って、容積率の算定に用いる床面積から除外されるので、建物全体としてはより大きな床を持つ、収益性の高いものになるわけです。

 

ただ普通に考えれば、地面を掘って地下室を設けようとすると、その分コストが掛かります。せっかく床面積をたくさん確保することができて収益性が上がったとしても、地下工事にコストが掛かってしまうようでは、元も子もありません。

 

ところが斜面地であれば、地下を掘らずに地下階をつくることができるのです。それは、地下とは何かという点で建築法規は独特な考え方を取るからです。

「ドライエリア」を設置して採光・通風を確保

建築基準法では、地盤面との関係で一定の高さより低い位置にあるフロアを地下と呼びます。問題は、この地盤面です。一般には地表と同じに思えますが、そうではありません。しかも、一つの敷地に一つの地盤面とは限らないのです。

 

この斜面地では、地盤面を正面エントランスから見たときに2階に当たる位置に設定し、住宅地下室の容積率不算入という緩和規定に基づき1階に当たるフロアの床面積を、容積率算定上の床面積からはずすことができました。その分、建物全体としては床面積を多く確保することができたのです。

 

建物の背後に斜面を背負うことになるとはいえ、幸い、敷地は東向きですから、採光・通風の確保は十分に可能です。同じフロアに並ぶ住戸を、雁行といって少しずつずらしながら配置することで、窓を西・南方向に向けて確保しました。

 

共用廊下は斜面側に配置することになりますが、ここでも採光・通風を確保しようと、建物まわりを掘り込み、ドライエリアを設置しました。建物と背後の斜面との間に空き地を設けたので、そこから日差しを取り込み、風を呼び込むことが可能です。

 

「ラグゼ」と名付けたこの賃貸住宅はMさんの配偶者と長女が相続する予定です。この斜面地にこれほどの賃貸住宅が建つとは、誰も予想しなかったのでしょう。土地・建物を相続で譲り渡す側も譲り受ける側も、「ここにこんなものが建つの!」と、大変驚き、そして喜ばれました。

 

使い勝手が悪そうで一見価値がないかのような斜面地を、また次の世代に引き継いでいけるわけです。その喜ばれた皆さんのお顔を拝見すると、建築設計のプロとしての一番のやりがいを感じます。

 

完成は2007年11月。入居者の募集にあたっては、希望者が見学できるようにサンプルルームを現地に用意しました。地元の不動産仲介会社や管理会社のホームページを通じて入居者を募集した結果、建物引き渡し時にはほぼ満室でした。

 

【建築概要】

 

●ラグゼ


所在地:横浜市鶴見区
主用途:賃貸住宅
構造・階数:鉄筋コンクリート造、地上5階・地下1階
敷地面積:492.68㎡
延べ床面積:957.23㎡
総戸数:27戸
間取り:1K・2DK
住戸面積:24.17~37.10㎡
設計:環境建築設計
施工:共立建設
完成:2007年11月

本連載は、2014年6月12日刊行の書籍『変形地の価値を高めるマンションづくり』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

変形地の価値を高める マンションづくり

変形地の価値を高める マンションづくり

宮坂 正寛

幻冬舎メディアコンサルティング

別荘地のような斜面地、一角に他人の土地を挟む変形地、奥まった場所にある旗竿地…。 活用をためらってしまうような条件の悪い土地を活用するためには、その土地の潜在価値を引き出すことが重要です。本書では、そのために必…

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