前回は、私募リートの投資対象が「共有物件」であった場合のリスクについて説明しました。今回は、対象が「区分所有建物」であった場合のリスクを見ていきます。

「建物の一部」を所有する権利を持つ区分所有者

(10)区分所有建物に関するリスク

区分所有建物とは建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)の適用を受ける建物で、単独所有の対象となる専有部分と共有となる共用部分(建物の躯体、エントランス部分等)から構成されます。

 

区分所有建物の場合、建物及びその敷地(区分所有物件)の管理及び運営は、区分所有法の規定にしたがい、また、区分所有者間で定められる管理規約その他の規則(管理規約等)がある場合にはこれに服します。管理規約等は、原則として、区分所有者数及びその議決権(管理規約等に別段の定めのない限り、区分所有者の所有する専有部分の床面積の割合)の各4分の3以上の多数決によらなければ変更できません。なお、建替決議等においてはさらに多数決の要件が加重されています。

 

不動産が区分所有物件の一部である場合、投資法人単独ではこうした決議要件を満足することが難しいため、区分所有物件の管理及び運営について投資法人の意向を十分に反映させることができない可能性があります。

 

さらに、他の区分所有者が自己の負担すべき区分所有建物の共有部分にかかる公租公課、修繕費や保険料等の支払いまたは積み立てを履行しない場合、投資法人が不動産の劣化を避けるため、その立替払いを余儀なくされるおそれがあります。

 

これらの場合、投資法人は、他の区分所有者に関する立替払金の償還を請求することができ、この請求権については区分所有法により担保権(先取特権)が与えられていますが、他の区分所有者の資力の状況によっては、償還を受けることができない可能性があります。

他の所有者の状況によっては建物自体の価値に影響

また、各区分所有者は、原則として、自己の所有する専有部分を自由に処分することができます。したがって、投資法人の意向にかかわりなく他の区分所有者が変更される可能性があります。これに対し、管理規約等において、区分所有者が専有部分を処分する場合に他の区分所有者に先買権もしくは優先交渉権を与えたり、一定の手続きの履践義務等が課されていたりする場合があります。

 

この場合には、投資法人の知らない間に他の区分所有者が変動するリスクは減少しますが、投資法人が専有部分を処分する際に制約を受けることになります。

 

また、各区分所有者は、自己の所有する専有部分を自由に賃貸するなど使用収益することができます。投資法人の不動産である専有部分の価値や収益は、このような他の区分所有者による使用収益の状況によって影響を受ける可能性があります。

 

なお、区分所有建物の専有部分を所有するために区分所有者が敷地に関して有する権利(所有権の共有持分等)を「敷地利用権」といいますが、区分所有法は、原則として、専有部分と敷地利用権を分離して処分することを禁止し、不動産登記法は「敷地権の登記」の制度を用意しています。

 

しかし、敷地につき、敷地権の登記がなされていない場合には、専有部分と敷地利用権を分離して処分されたときに、その処分の無効を善意の第三者に主張することができません。また、区分所有建物の敷地が数筆の土地であり、各筆について敷地利用権(所有権、賃借権等)を有する区分所有者が異なる場合(いわゆる分有形式)には、専有部分と敷地利用権を分離して処分することが可能とされています。

 

分離処分がなされると、区分所有物件を巡る権利関係が複雑になるため、不動産に関する流動性のリスクや、それらのリスクを反映した価格の減価要因が増す可能性があります。

本連載は、2016年1月25日刊行の書籍『世界一わかりやすい私募REITの教科書』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

世界一わかりやすい私募REITの教科書

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初村 美宏

幻冬舎メディアコンサルティング

取引所に上場せず、オープンエンドで運用される不動産投資ファンド「私募REIT」。 1990年代にアメリカで人気となり日本でも2001年から発売が開始、不動産投資市場でも急成長を遂げている人気の投資商品である。主な投資者は機…

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