(※写真はイメージです/PIXTA)

患者の奪い合い激化、診療報酬点数の引き下げ、人材不足…クリニックの経営環境は厳しさを増す一方です。これからの時代、院長に「経営」の意識があるかどうかが、クリニックの明暗を分けると言っても過言ではありません。経営を左右する大きな問題の1つが、昇給などの労務問題でしょう。クリニックを維持していくためには、経営者(=院長)とスタッフが「別の生き物」であることを理解したうえで、時には大きな決断を下すことも必要です。

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院長とスタッフでは「考えていること」がこれだけ違う

クリニックで働いているスタッフのモチベーションの源泉はさまざまです。企業のように定期採用のシステムが確立されていれば話は別ですが、中途採用で人材を確保するケースが大半なので、多様な価値観や働き方に対する柔軟な対応を求められます。

 

スタッフの年齢構成は、30代〜40代が中心になるでしょう。ワーキングマザーの多くは、時短勤務等、子育てしながら働ける環境を望んでいます。働く目的としては、子どもの塾代や習い事代等、少しでも家計の足しにしたいというのが本音でしょう。子どもが高校生くらいになると、大学進学を視野に学費を稼ぐ必要性から、正社員を希望するスタッフも現れます。いちばんお金がかかる時期なので、世帯主の収入だけでは追いつかないのです。いずれにしても、「子どものためにお金を稼がなければいけない」というところが主な動機になります。

 

一方、50代になって子育てが一段落すると、生活と時間にゆとりができるので、次元の高い欲求として働き方や生き方を考えるようになります。仕事を通じて自分のスキルを高めたいと考える人、ワークライフバランスを考えて、プライベートの時間を充実させたいと考える人等、各々がQOLを重視するようになるのです。有給休暇の取得が積極的になるのもこの世代の特徴です。

 

ミスマッチを防ぐためにも、どこまで深入りするかは難しいところですが、採用の段階でスタッフ一人ひとりがどのような家庭環境、生活環境におかれているのか、なにを望んでいるのか、モチベーションがどこにあるのかを聞いておくとよいでしょう。

スタッフ一人の要求を「のまざるを得なかった」結果…

ここで私が言いたいのは、スタッフに自分と同じ熱量や責任感を求めてはいけないということです。クリニックは“きれいごと”だけでは経営できません。私自身、スタッフとの間で発生した揉め事が訴訟問題に発展するケースをこれまで何度も見てきました。時に、“こうあるべきだ”という“理想論”では解決できない現実を直視することもクリニックの経営者には求められます。

 

労使間の対立を生む火種となる大きな要因が、待遇への不満です。業務の属人化による弊害を生んだXクリニックの事例をご紹介しましょう。

 

Xクリニックでは、正社員として看護師と医事スタッフ1名ずつ、パートスタッフを5名雇用しています。人件費をできるだけ抑えたい院長は、常勤スタッフを増やすつもりはありません。そんな中、一人のパートスタッフから「時給を上げてもらえないか」という申し入れがあったのです。

 

「先生、医事スタッフの中でレセプトができるのは私だけですし、常勤スタッフと変わらないくらい働いています。業務の質や量を考えて、時給を上げてもらえないでしょうか?」

 

彼女の言い分が理解できなくもありませんが、院長は困惑しました。パートスタッフとはいえ、勤続年数が長いため、働き始めたときに比べれば時給もそれなりに上がっていますし、時給に換算すると、正社員の医事スタッフよりも高いのです。そのうえ、常勤並みの勤務時間なので社会保険も適用しています。これ以上時給を上げると、勤務時間が増えた場合、正社員スタッフの給料を超えかねません。ボーナスこそ支給しませんが、正社員とパートの処遇バランスは崩れてしまいます。

 

パートスタッフに口止めをしたうえでこっそり時給を上げることも考えましたが、口外しない保証はありません。「要求を受け入れてもらった」という“成功例”を作ってしまうと、他のスタッフもあとに続きかねないという不安にも苛まれました。

 

最終的に院長はスタッフの要求に応じたのと同時に、全体のバランスを保つため、正社員スタッフの賃金も上げました。この場合、「レセプト業務を行えるのが、そのスタッフしかいない」状況を生み出していたことに、要求をのまざるを得なかった要因があります。院長は今後の対策として、すべての医事スタッフがレセプト業務を行えるように院内研修を始めました。

「悪気なくクリニックに損害を与えるスタッフ」も存在

このエピソードからも分かるとおり、経営者とスタッフは考えていることがまるっきり違います。私もよくドクターにこう言います。

 

「スタッフと院長(経営者)は別の生き物です。理解し合えると思わないでください」

 

全員がそうだとは言いませんが、休む間もなく働いている先生をよそに、スタッフはいかに楽をするか、いかにサボるかを考えています。もしかするとクリニックに損害を与えるスタッフもいるかもしれません。いくつか例を挙げましょう。

 

●電子カルテの前で仕事をしているふりをするスタッフ(時間泥棒)

●1時間で終わる仕事を半日かけてやっているスタッフ(時間泥棒)

●残業の多いスタッフ(時間泥棒)

●金品や備品、薬剤等を自宅に持ち帰るスタッフ(窃盗罪)

 

「うちのスタッフに限ってそんなことはない」と反論されるかもしれませんが、スタッフは“悪気なく”やっている場合も少なくありません。とにかく、性善説に立ってスタッフを信用し過ぎないことです。

 

院長が知らないだけで、スタッフ同士で集まると職場や上司の陰口や愚痴に花を咲かせていることでしょう。しかし、そんなことは気にするだけ時間の無駄です。

 

院長はクリニックの経営者なので、クリニックで起こるすべての出来事の責任を問われる立場におかれています。「経営者は言い訳ができない」と言われるのはつまり、「目の前の現実から逃れられない」ということです。

 

 

柳 尚信

株式会社レゾリューション 代表取締役

株式会社メディカルタクト 代表取締役

 

 

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※本連載は、柳尚信氏の著書『クリニック経営はレセプトが9割』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

クリニック経営はレセプトが9割

クリニック経営はレセプトが9割

柳 尚信

幻冬舎メディアコンサルティング

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