『Amazon Prime Video(アマゾンプライム・ビデオ)』『Netflix(ネットフリックス)』をはじめとしたサブスクリプション(=サブスク)を活用している人は多いことだろう。有料動画配信サービスに倣い、大手企業がこぞってサブスクを始めているが、解約率の高さに頭を抱えるケースも少なくない。そんなときに活躍するのが、チャットボットを解約ページに置き、その原因をヒアリングするシステムだ。本記事では、株式会社Macbee Planetエヴァンジェリスト・佐野敏哉氏の書籍『解約新書 マーケッターに捧げる解約の真実と処方箋』(幻冬舎MC)より一部を抜粋、チャットボットを導入したバンダイチャンネルを例に解説していく。

バンダイチャンネル「解約防止率が10倍」の驚愕

◆解約ページまで来ても、まだ「解約するか悩んでいる」人が結構いる

 

一般的なアンケートでは、「解約を希望しますか?」と聞くとき、回答の選択肢は普通「はい」か「いいえ」のどちらかです。バンダイチャンネルのチャットボットでは、それに「解約するかどうか悩んでいる」という選択肢も加えています。すると毎月決まって5%程度の人たちが「悩んでいる」ことが分かりました。

 

この現象は、チャットボットを使ったほかのサブスクリプションサービスの結果を見てもほぼ共通しています。

 

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解約ページまでにはそれなりの段階を経て来ているのですが、それでもまだ悩んでいる人が一定数存在することには、バンダイチャンネルも気づいていませんでした。サブスクリプションサービスを解約することに抵抗感がなくなっていることの表れかもしれませんが、原因はともかくとして、なんとなくやめようとする人が潜んでいたことがチャットボットで「見える化」されました。

 

この「解約するかどうか悩んでいる」人は、次のシナリオで解約を防止するための会話へと進みます。するとそれ以外の人と比べて解約防止率が10倍になりました。

 

「はい」と答えた人の95%は最終的にやめていきますが、悩んでいる人は40%以上が会員にとどまりました。やめようという強い意思があるわけではないため、チャットボットとの会話を経て「やっぱり続けようか」と思い直したのではと推測できます。

 

また解約する理由を尋ねる質問に対しては、「コンテンツがなくなった」「見る時間がなくなった」「端末が対応しない」「金額」「その他」といった回答の中で「その他」を選ぶ人が、これまた毎月ほぼ10%程度います。この「その他」を選んだ人たちの解約防止率は、ほかの解約希望者の5倍以上です。

 

「その他」と答えた人に「その他とはどういうことですか?」とさらに尋ねると、その中には解約理由がはっきり分かっていない人が含まれています。

 

おそらく「解約するかどうか悩んでいる」と答えたような人たちは、これまでは悩んでいることを打ち明けることなくそのままやめていっていたのでしょう。そういう解約者が毎月いたのは「目から鱗だった」とバンダイチャンネルの担当の方も驚いていました。そして理由が明確でないほど解約を阻止しやすいことも分かってきました。こういう事実を知ると企業側も認識を改めることができます。チャットボットと会話を続けることで、利用していたサービスにまだ後ろ髪を引かれている様子が見えてきました。

チャットボットと利用者との間に最適な会話深度がある

◆会話を重ねるといったんは解約防止数が増えるが

 

バンダイチャンネルでチャットボットと会話を始めた人は、平均7.6回会話をしています。やめようとして解約ページに来たけれど、話し出すとまだ言い足りなかったということでしょうか。チャットボットを導入する前の解約時のアンケートの回答と比べて、得られた情報量は大幅に増えました。

 

会話が進むと解約希望者の頭の中が整理されていき、企業側は詳しくデータが取れます。結果的に解約してしまっても得られる情報量が増えるので、基本的にはより長く話してもらえるシナリオが望ましいといえます。質問数が多いと会話数が増える傾向にあり、回答の選択肢の中に「これだ」と思えるものがないと会話をやめやすいので、質問も選択肢も数を用意します。

 

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会話が進むと解約防止数はいったん増えていきますが、ある程度まで会話をすると防止できなくなり今度は減っていきます。このような会話をやりとりする回数と解約防止数の関係をグラフにすると、解約防止数が上がってから一度下がり、再び上がってまた下がるという曲線を描きます(下図参照)。

 

チャットボットの会話深度と解約防止数の相対関係

 

会話が始まってすぐに解約をやめる人はあまりいません。会話数が1回から3回までは、ちょっと話をしてみただけという人が多いのでしょう。4回以上会話を続けると解約をやめる人が多くなり、10回から11回でピークを迎えますが、ここからは解約防止数が減っていくという現象が起きます。16回目でそれが底を打ち、また20回目まで増えていきます。この二つ目の山を過ぎてしまうと、解約をやめることは難しくなるようです。よくここまで会話を続けてくれたと感謝すべきかもしれません。

 

最初の山では、解約回避策の効果が出ていると考えられます。不具合に対してチャットボットが「こうすればまた見られるようになります」と伝えたり、「このようなものも見られますがどうでしょう」と提案しているので、考え直すのではないでしょうか。それでもどうしようか悩んでいて、「やっぱりやめよう」と思うのが15、16回目で、グラフに谷間ができます。二つ目の山は、なお悩み続けた結果「やっぱり続けよう」と思ったのではないでしょうか。

 

ですから解約防止に関しては、会話が続けばいいというわけではないようです。ビジネスのセールストークも、長く話せばいいというものではありません。1時間話すより2時間話す方がいい結果が得られるわけではないからです。むしろここぞというときにクロージングをして区切りをつけなければタイミングを逃してしまいます。

 

相手の心理を考えながら、一度引いた方がいい場合もあります。解約防止のためには、チャットボットにもそういうタイミングや、押したり引いたりする駆け引きを教えるのもありなのかもしれません。

「奥さんに怒られます」…赤裸々な声が続々と届く

◆多くの人が自由記入もしてくれる

 

改善や要望、やめる理由などについて聞いたときに、用意した選択肢だけでなく思ったことを自由に記入する欄があります。するとテキスト入力という手間がかかるにもかかわらず答えてくれる人が40%近くもいます。コンテンツに関する質問では70%以上になります。やめるときに、これが見たかった、ああしてほしかった、なにが足りなかったと言いたかったということでしょうか。

 

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それが今まで企業の目にとまらなかったのは、訴える場がなかったからです。チャットボットが人間らしい対話をするのも貢献しているかもしれませんが、思いのほか率直に書いてくれます。

 

やめる理由として、こんな具体的な身の上話をしてくれる人もいます。

 

「免許取得のための貯金をするから」

「結婚して子供ができたので見ていると奥さんに怒られます」

「クレジットカードの支払いを滞納して止まってしまいました」

 

なかには家族の方が書いてくださったのか、「本人が亡くなりました」ということもありました。長い返事を書いてくれる人もいます。次の書き込みは、バンダイチャンネルのサービスに対する問いかけへの回答です。

 

「アマゾンプライムとアニメ動画の差があまりない気がする。むしろ差があるならどのへんにあるか教えてほしい。このままでは登録している意味が見出せない」

 

バンダイチャンネルは特定の作品を独占配信しているわけではなく、他の配信サービスで見られる作品もあります。バンダイチャンネルではより多くのシリーズ作品を見られますが、その違いが伝わらずに「登録している意味」が見出せなかったようです。このコメントを書いた人にとっては、説明が十分ではなかったようです。

 

次のコメントについては、少し解説が必要かと思います。

 

「会員の説明で分からないことがあり、とりあえず入ってみようと思いましたが、入ったら、やっぱりそういうことかという感じでした。見たい作品がたくさんあり期待したが残念です。入ってすぐに解約になってしまい申し訳ありません」

 

バンダイチャンネルは会員になれば見られるコンテンツのほかに、追加料金が必要なものがあります。例えばある作品のシリーズでも「月額見放題プラン」料金で見られるものと、別途課金される「レンタル作品」とがあります。そのこと分かりづらく、会員になれば見放題のように思われると「やっぱりそういうことか」と不信感を生んでしまいます。これについてはサービス内容の案内を改善しました。解約希望者からの声が、不信感を取り除くことに繋がったのです。

 

またこんな声もありました。

 

「サブスクリプションサービスを渡り歩く時代。囲い込まれる時代じゃない」

 

そう言われてしまうと、的を射た意見ですとうなずかざるを得ません。アニメに熱い思いを持っているコアなファンもいるので、「さっさとほかのサービスに食われて死ね」のような辛辣な捨て台詞もありますが、全体を通していえるのはこういう人は少なく、きちんと返事を書く人の方がはるかに多いということです。解約の理由だけではなく、その背景や生活まで見えてきます。

 

 

 

佐野 敏哉

株式会社Macbee Planet エヴァンジェリスト