今回は、 実家の相続で「小規模宅地等の特例」が適用できない典型例を見ていきます。※本連載は、社団法人・ソフトウェア開発・建設など、約100社の税務に携わる、公認会計士の笠原清明氏の著書、『税理士が教える 知って得する相続 揉めて損する相続』(PHP研究所)の中から一部を抜粋し、相続の“新しい常識と対策”をわかりやすく解説します。

実家に暮らしていない子どもによる「相続分」の要求

昭和のライフスタイルでは、親と同居し、親の面倒を見た子どもが、親の家を相続することが当たり前のようでした。

 

親の面倒を見ていない子どもも、実家の相続についてはあえて主張しなかったようです。実家は、親と同居した子どもが取得し、現金預金は平等に分ける、といった分割が一般的でした。

 

しかし、今は違います。権利意識が高まり、実家に暮らしていない子どもが、相続に際して「民法に定められた相続分」を要求するケースが一般的になりました。

 

親と同居して面倒を見た子どもは、昭和の頃の考え方で相続するつもりでいます。ところが、家を出た子どもは、法律にしたがった相続分を主張するつもりでいます。この考え方の違いが、揉める相続を誘発してしまうのです。

 

特に揉めるのが、相続財産が実家の土地・建物と少額の現金預金しかないケースです。具体例と、典型的な相続人の主張を見てみましょう。

 

<相続財産等の具体例>

●相続人子ども2人(長男=親と同居、次男=別居)

●相続財産実家の土地・建物1億円、預貯金2000万円

 

【長男の主張】

「実家で親と同居し、ずっと面倒を見てきた。当然、実家は自分が相続したいし、共有などとんでもない。それに先祖代々引き継いできた家なので、売却などまったく考えていない。お金があれば相続分を現金で払いたいが、そんなお金はない」

 

【次男の主張】

「親の面倒を見てもらったことには感謝しているが、相続の分割とは別の話だ。法律で決まっている割合にしたがって、きっちり分割してほしい。自宅を長男の名義にすることに異議はないが、自分たちの分は現金で払ってほしい。もし現金がないなら、実家を売却して用意してほしい」

 

私は昭和世代なので、長男の主張を支持してしまうのですが、知り合いの弁護士さんにも確認したところ、法律的には次男の主張が正しいとのことでした。

 

どちらかが歩み寄らなければ、最後は裁判所のお世話にならないと解決しないことでしょう。いずれにしろ、長期間にわたっての交渉が必要になりますし、その間、遺産を分割することができない、揉める相続になってしまうのです。

遺産分割で揉めた結果、相続税申告の提出期限を超過

結果的に揉める相続となり、相続税申告の提出期限(相続開始の日の翌日から10か月)までに分割ができない場合は、小規模宅地等の評価減の特例の適用を受けることができません。誰がその住居の取得者になるのか、確定できないからです。

 

この場合、実家の土地について、80%減額の適用をしないで相続税を算出し、納付する必要が生じてしまいます。

 

これは、大きな税負担になってしまうでしょう。

 

ただし、当初申告に「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を添付しておくと、申告期限後3年以内に分割できた場合、税金が返される制度があります。申告期限までに分割できなかった場合は、この手続きを行っておきましょう。

 

申告期限後3年以内に分割できない場合でも、特例の適用をあきらめる必要はありません。「やむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し、所轄税務署長の承認を受けた場合にも、特例の適用を受けることができるからです。

税理士が教える 知って得する相続 揉めて損する相続

税理士が教える 知って得する相続 揉めて損する相続

笠原 清明

PHP研究所

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