今回は、近年、「小規模宅地等の特例」の適用が難しくなっている理由を見ていきます。※本連載は、社団法人・ソフトウェア開発・建設など、約100社の税務に携わる、公認会計士の笠原清明氏の著書、『税理士が教える 知って得する相続 揉めて損する相続』(PHP研究所)の中から一部を抜粋し、相続の“新しい常識と対策”をわかりやすく解説します。

昭和の時代は「自宅で介護」が常識だったが・・・

特定居住用宅地等の要件の1つに、「被相続人の居住の用に供されていた宅地等」という項目があります。この要件を厳密にいうと、相続開始直前において被相続人の居住の用に供されていた土地、ということになります。

 

昭和の時代のライフスタイルでは、この点はほとんど問題になりませんでした。しかし現在のライフスタイルでは、介護状態になったとき、この要件に抵触するケースが頻繁に見受けられます。

 

昭和の時代では、「自宅で介護」が常識でしたので、介護が必要な状況になっても自宅で生活をしていました。ですから、自宅の土地は、相続開始直前まで居住用に供され、特例の要件を満たしていました。

 

ところが現在は、介護が必要な状態になったら、老人ホームなどに入居するのが一般的になっています。老人ホームに入居すると、そこが生活の拠点になります。そのため自宅の土地は、相続開始の直前には居住用になっておらず、特例の要件を満たしていないことになってしまうのです。

 

ただ、「何十年も居住用にしてきたのに、相続開始の直前に老人ホームに入居したことで特例が受けられなくなるのは、あまりにも厳しすぎる」という意見が多く聞かれるようになりました。

 

そこで、平成26年1月1日以後の相続から、次のケースに当たる場合は、特例の適用が認められるようになりました。

 

①要介護認定又は要支援認定を受けていた被相続人が次の住居又は施設に入居又は入所していたこと

 

◆認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム又は有料老人ホーム

◆介護老人保健施設、サービス付き高齢者向け住宅

 

②障害支援区分の認定を受けていた被相続人が障害者支援施設などに入所又は入居していたこと

 

気をつけていただきたいのは、本連載の冒頭で述べましたA子さんの母親のような要介護認定を受けずに老人ホームに入居した場合など、この要件を満たしていないとき、特例の適用は受けられないということです。

 

また、被相続人の居住用にしなくなった後に、事業用、または被相続人等以外の者の居住用とした場合にも、特例を受けることができないのにも注意が必要です。つまり、賃貸をしたらOUT(アウト)ということです。

子どもが同居していないケースは特例の適用外

近年では、子どもが実家を相続する場合、この特例を受けるのは大変難しくなっています。

 

それは、配偶者以外が実家を取得する場合、「被相続人と同居していた親族」に限るという要件が定められているからです。つまり、子どもが親(被相続人)と同居していない限り、「80%OFF」の特例が受けられないのです。

 

昭和の頃のライフスタイルでは、長男が親と同居するのはごく普通で、相続に際しては、同居する長男が実家を取得するのも当たり前のようでした。

 

したがって「被相続人と同居していた親族」に限るという要件は、特に問題にならずにクリアできたと思われます。

 

しかし、現在のライフスタイルでは、子どもはある程度の年齢になったら親の家を出て、別の家に住むのが一般的です。

 

私の事務所で扱った相続案件でも、子どもが実家に住んでいるケースはほとんどありませんでした。そのため、「被相続人と同居していた親族」という要件のクリアが難しくなっているのです。

税理士が教える 知って得する相続 揉めて損する相続

税理士が教える 知って得する相続 揉めて損する相続

笠原 清明

PHP研究所

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