優先証券の運用に特化した米国スペクトラム・アセット・マネジメント社の最高執行責任者(COO)、シュー・R・バイヤー氏へのインタビュー。第4回目のテーマは、「取引市場と参加者、運用環境の実態とは?」。聞き手は、香港の新しい金融機関であるニッポン・ウェルス・リミテッド(NWB/日本ウェルス)の幾田朋彦氏である。

優先証券の信用力を見抜くのはやはり至難!?

幾田 仮の話をしますが、もしあなたに十分な資金があり、優先証券に投資をするのであれば、個人として投資しますか、それともあなた方のようなファンドに運用を委託しますか?

 

バイヤー 運用者だからというわけではありませんが、私ならやはりファンドにお金を預けます。個人が投資家として成功するには自分の投資スタイルをよく理解し、取引の仕方や売買に関する慣習を熟知する必要があります。

 

 

同時に、特定の投資先に集中投資をするのではなく、投資先の分散を試みなければ過大なリスクを負うことになります。自分が許容できるリスク量を計測し、リスクの最小化とリターンの最大化を図る作業は個人で完結できるほど単純なものではありません。投資している優先証券の信用力を見抜く力だけでは不十分なのです。優先証券と言っても、その種類は様々且つ複雑で、目論見書等の法的書類に目を通さなければ証券の特徴を理解することは不可能です。

 

トラスト型優先証券(TruPS)、累積型優先証券、非累積型優先証券、CoCo債等の異なる種類の優先証券は、仕組みが異なるが故にその価格や売買方法も異なります。今申し上げたのはもっとも基本的な相違点にすぎません。優先証券の市場規模は5,000億米ドル相当で、ハイイールド債市場の1/3程度しかありませんが、大きく2つの市場が存在します。

 

1つは「25ドル額面市場」と言って、個人投資家が売買可能な優先証券がニューヨーク証券取引所を介して取引されます。

 

もう1つは「1,000ドル額面市場」と言って、最低取引金額が100万米ドル以上の主に機関投資家向けの市場です。最低投資金額がとても高いので、個人投資家がこの市場で分散投資をするのはとても難しいでしょう。

 

スペクトラムはファンドとして十分な規模がありますので、この2つの市場を自由に出入りすることができます。そうすることによって投資先を分散したり、片方の市場のみで発行・取引される優先証券に投資をしたり、2つの市場で取引されている類似証券が相対的に異なる価格水準で取引されている機会を狙って収益を得たりするのです。個人がこれだけのことをするのは困難と言わざるを得ません。

優先証券に特化した機関投資家のメリットとは?

幾田 異なる市場へのアクセスもそうですが、あなた方のような機関投資家の方がブローカーやディーラーとの付き合いも密なので、個人投資家よりも有利な価格で注文執行しやすいのでしょうね。

 

バイヤー ただ単に機関投資家であるから有利な価格を提示されるというわけではありません。しかし、我々は優先証券に特化した機関投資家なので、市場の動向は常にチェックをしておりますし、ブローカーとも毎日のようにコミュニケーションを取ります。

 

他の市場参加者がとても大きなブロックトレードを執行しようとしているときに、その取引の相手方となれば割安な価格で優先証券を手に入れられることもありますが、逆にとても小さな金額の優先証券を処分したがっている市場参加者の相対取引に応じることで、有利な価格で注文執行ができることもあります。当然、こうした機会に提示された価格が割安か割高かを判断するのにも蓄積されたノウハウが必要ですし、こうした情報へのアクセスそのものが我々に有利な立場をもたらしてくれていると言えるでしょう。 

 

幾田 取引の頻度はどれくらいなのでしょうか? 優先証券の市場は公社債の市場より流動性が低いと思うのですが、今のお話を聞いていると、市場参加者はそれなりに活発な印象を受けます。

 

 

バイヤー 私達の場合、米ドル建のマーケットに軸足を置いています。他のマーケットに比べて流動性が高いこともさることながら、リターンを生む潜在力も高いと考えているのがその理由です。年間の取引量はポートフォリオ全体の20~30%くらいでしょうか。一般的な株式ファンドと比べると低いですが、債券ファンドと同程度かもしれませんね。

本稿は、情報提供を目的として、インタビュー時点での経済データ等をもとに個人的な見解を述べたもので、スペクトラム・アセット・マネジメント社およびNWBとしての公式見解ではありません。また、特定の金融商品への投資の勧誘を目的とするものではありません。

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