高額になりやすい「病院建替え」のコストを圧縮するには?

前回は、一般的な建築物と異なる、病院特有の設計の難しさについて解説しました。今回は、高額になりやすい「病院建替えコスト」を圧縮する方法を説明します。

最初に決定した「価格グレード」に沿って設計を進める

建替えを考える病院側にとって、もっとも把握しづらく、不安の対象となるのが建替えにかかわるコストであるにちがいありません。

 

計画が進むうちに経営者やスタッフの要求がどんどん高くなり、当初の予算をオーバーしてしまった事例は、過去に数多く報告されています。予算超過は病院の経営を圧迫するだけでなく、設計変更を繰り返すことで検討に十分な時間を割きづらくなりますから、できれば避けたい事態です。

 

そこで重要なのが、選択式のコストコントロールプラン・メニューです。最初に価格グレードを決定し、その方向性に沿って設計を進めていけば、「こんなはずではなかった」という事態を防ぐことができます。

 

複雑で選択機会が多い病院設計は、フルオーダー式にしてしまうと、経営者の想像がつかない範囲まで自己責任で選ばなくてはなりません。そこで、コストコントロールプラン・メニューは、構造形式、平面形状、外壁構成、免震の有無など、コストに大きな影響を与える要素を抽出して3段階の価格グレードに分け、セミオーダー式で選べるように配慮します。

 

ただ、実際には事例のように単純にグレードから選択されるわけではなく、項目によっては各グレードをまたがって決定されることになります。そうして、初めて病院のアイデンティティが明確化されることになるのです。

 

並行してコスト計算のソフトウエアを構築しておけば、選ばれたメニューを入力するだけで瞬時のうちに概略コスト計算ができますから、病院もコストを把握しやすくなります。

 

コストコントロールプラン・メニューを活用する際に病院設計タスクチームが留意すべきことは二つあります。

 

一つは、それぞれのメニューの内容・意味について、しっかりと説明し病院側に十分な理解を得てから選んでいただくことです。たとえば、左ページに掲げる事例の表の第2行「構造形式」でいえば、まず、S造(鉄骨造)とSRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)について、その仕組みや内容をたとえば次のように説明しなくてはなりません。

 

◆グレード1のS造(鉄骨造)、またはSRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)の採用は、12.8×12.8メートルと、柱と柱の間のスパンを長くとることができ、柱の位置に左右されない平面計画や空間利用の自由度が広がる。しかし、建築費用はもっとも大きくなること。

 

◆グレード2のRC造(鉄筋コンクリート造)では、グレード3より長いスパンで計画するため計画の自由度は高いが、柱や梁の強度はグレード3より高く保つ必要があるため、コスト高になること。

 

◆グレード3のRC造は、スパン距離が短くなり柱の本数も増え計画自由度は限られるが、コストはもっとも低くなる(『経済スパン』と称することもある)こと。

初期段階でコスト方針が出れば、コントロールが楽に

病院設計タスクチームが留意すべきことの二つ目は、設計の初期段階でメニューを提示して選んでいただき、コストを算出して概略仕様を決定することです。

 

一定のコスト枠のなかでより高い機能を求め、機能が同じならよりコストを低減できるようコントロールをしていきますが、計画内容が固まっていない初期段階でコスト方針が出されれば、その方針に従って計画内容をコントロールできるので、そのコントロール効果は初期に決定するほど高まるためです。

 

[図表]コストコントロールプラン・メニューの事例

 

また、設計の初期段階であれば、もし建設費が大幅な予算超過である事が発覚しても、事業を成立させるために様々な提案が可能です。最近増えているのが、別事業化や発注方式の提案です。

 

別事業化とは、本来建設費に含まれる、たとえばエネルギーセンター(機械室)や敷地内の駐車場設備などを、それぞれ単独事業として外部と委託契約することです。こうすることで、その分の建設費を丸々軽減することができます。

 

契約したエネルギーサービス会社や駐車場運営会社などには、月々のランニングコストが発生しますが、病院側はその後の運営・メンテナンスの負担から解放されるというメリットもあります。

 

発注方式の提案とは、従来のゼネコンへの一括発注に加え、本来ゼネコンの下請けであるサブコンやエネルギーサービス会社に、設備工事や電気工事を分離発注する手法です。ここで価格競争も生まれるため、最終的に最も安い工事価格での契約を模索することができます。

 

別事業化や発注方式の提案も、共にその運営や施工の流れに適した設計仕様とする必要があり、そこには設計会社の高い専門性と蓄積されたノウハウが必須となることは、言うまでもありません。

本連載は、2017年8月30日刊行の書籍『病院再生の設計力[増補改訂版]』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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連載「建設設計の力」で病院経営を改善する方法

1932年、建築家・久米権九郎によって創立された≪久米設計≫では、「人と社会への貢献」の理念のもと、「建築設計・監理」にとどまらず、「各種マネジメント&ソリューション」「環境設備エンジニアリング」「構造エンジニアリング」を柱にしたトータルソリューション業務を展開。おもに、事業の企画段階から設計、竣工後の運用アドバイスまで、一貫したサービスを提供している。とくに、業界に先駆け、同社内に「医療福祉設計部」を立ち上げるとともに、病院・介護施設などの設計プロフェッショナルたちが集まる「病院設計タスクチーム」では施主が抱える様々な課題解決を目指し、トータルな医療福祉コンサルティングサービスに取り組んでいる(写真は常務、執行役員の佐藤基一氏)。

著者紹介

病院再生の設計力[増補改訂版]

病院再生の設計力[増補改訂版]

久米設計 病院設計タスクチーム

幻冬舎メディアコンサルティング

【病院の設計から、経営を改善する―― 数々の病院を再生させてきた百戦錬磨のプロ集団が、設計のプロセスを公開 】 情報化・高齢化による市場の変化や度重なる医療制度改革にさらされ、病院経営は、年々厳しさを増しています…

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