今回は、トランプ政権下で米国の「温室効果ガス排出量」はどうなるかをを探ります。※本連載は、東京大学公共政策大学院教授の有馬純氏の著書、『トランプ・リスク――米国第一主義と地球温暖化』(エネルギーフォーラム)より一部を抜粋し、トランプ政権の下で「米国のエネルギーセクター」はどうなるのか、その行方を探ります。

ニューヨーク・タイムズが鳴らす「3つの警鐘」

これまで述べたようなトランプ政権のエネルギー・地球温暖化政策によって、米国の温室効果ガス排出量はどうなるのか。

 

米国大統領選直後の2016年12月のニューヨーク・タイムズ記事「トランプは気候変動にどのような影響を与えるのか?」では、

 

①米国の温室効果ガス排出量は、自然体では現状よりも増大してしまう

 

②カリフォルニアなど州政府の政策、省エネ規制、メタン規制、クリーン・パワー・プランなど、連邦政府の政策で削減したとしても、オバマ政権の2025年までに2005年比マイナス26~マイナス28%目標には届かない

 

③トランプ政権は、連邦政府の規制を弱体化・撤廃することが可能であり、その場合、期待される温室効果ガス削減効果の多くが消滅する

 

との警鐘を鳴らした。

シェールガス推進で温室効果ガス削減が進む!?

他方、以下のような理由で、トランプ政権の下でも、ある程度の温室効果ガス削減は進むとの見方もある。

 

●米国における近年の温室効果ガス削減は、クリーン・パワー・プランによるものではなく、安価な天然ガスが発電部門で石炭を駆逐した結果であり、国内シェールガス生産を推進するトランプ政権の下でも、この傾向は変わらない。

 

●オバマ政権の目標達成に対するクリーン・パワー・プランの貢献度は、4分の1程度であり、連邦レベルの政策を取りやめても、カリフォルニア州のように引き続き実施する州政府もある。

 

●再生可能エネルギーのコストも低下している。

 

●米国のグローバル企業は、既に脱炭素化に向けて舵(かじ)を切っている。

 

地球温暖化政策のシンクタンクであるローディアムは、2017年5月24日に発表した「2017年のストックテーキング:米国の温室効果ガス排出量見通しの調整」(※1)のなかでクリーン・パワー・プランの廃止など、これまで発表されたトランプ大統領の施策を盛り込み、今後、州レベルで新たな施策が導入されないとすると、米国の2025年の排出量は、オバマ政権の出した2005年比マイナス26~マイナス28%には及ばないが、2005年比マイナス15~マイナス19%程度にはなると見通している。

 

(※1)Taking Stock 2017: Adjusting Expectations for US GHG Emissions (2017年5月24日)

http://rhg.com/wp-content/uploads/2017/05/RHG_ENR_Taking_Stock_24May2017.pdf#search=%27Rhodium+

 

[図表1]米国の排出見通しと削減案

 

[図表2] 米国のエネルギー起源CO排出量の見通し

トランプ・リスク──米国第一主義と地球温暖化

トランプ・リスク──米国第一主義と地球温暖化

有馬 純

エネルギーフォーラム

本書では、パリ協定離脱を巡る政権の内幕を探ります。また、トランプ政権の下で米国のエネルギーセクターはどうなるのかなど、トランプ政権のエネルギー政策について冷静に分析した一冊となっています。

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