今回は、トランプ政権下における「米国の国際競争力」のゆくえを探ります。※本連載は、東京大学公共政策大学院教授の有馬純氏の著書、『トランプ・リスク――米国第一主義と地球温暖化』(エネルギーフォーラム)より一部を抜粋し、トランプ政権の下で「米国のエネルギーセクター」はどうなるのか、その行方を探ります。

パリ協定離脱等は、競争力と信頼を損なうと批判が噴出

2017年3月末のエネルギー独立・経済成長推進のための大統領令や、6月初めのパリ協定離脱表明の際、米国の主要メディア、民主党関係者、環境関連のシンクタンク、NGO(非政府組織)などは、「米国産業の競争力を失わせる自殺行為である」と強く批判してきた。

 

その定型的なものは、6月1日にThe Boston Globeに寄稿されたアーネスト・モニーツ前エネルギー長官のコメントであろう。

 

そのなかでモニーツ前長官は、「トランプ大統領のパリ協定離脱や予算教書は科学を否定するものであり、数兆円に上るクリーン・エネルギー市場における米国の競争力を減じ、グローバルな課題における米国の競争力を減退させ、集団的な義務に対する米国のコミットメントに関する同盟国の信頼を著しく損なうものである。歴史は、トランプ大統領を厳しく裁くだろう」と評している。

 

また、ハーバードビジネススクールのジョージ・セラフィム教授は、「米国のビジネス界は、連邦政府の施策により米国を低炭素インフラに向かう世界経済の趨勢から逆行することを懸念している。米国は、運輸部門、電力部門における最先端の技術、スキル、能力を失うことになる」と述べている。

残留しても、目標の下方修正は確実

筆者は、トランプ大統領のパリ協定離脱表明を非常に残念に思っている。モニーツ前長官が言うように、米国の国際的な地位に与える悪影響は非常に大きい。他方、「トランプ大統領の施策は、米国経済に悪影響をもたらす」という議論については、「本当なのか?」と感じている。

 

地球温暖化対策にはコストがかかる。これは、どのようなレトリックを駆使しようが疑いようのない事実である。地球レベルの外部不経済である地球温暖化問題を内部化するためのコスト負担を、各国の間で、どう分担するかが地球温暖化問題の最も難しいところである。

 

温室効果ガス削減の便益は、グローバルに均霑(きんてん)され、温室効果ガス削減のコストは各国で負担するという構図は、必然的にフリーライダーの問題を生む。だからこそ国際的な枠組みによる全員参加型の努力が必要になる。

 

地球温暖化対策をすれば、国際競争力が高まり、経済にプラスの影響が出るならば、地球温暖化問題がかくも深刻化し、地球温暖化交渉がかくも難航するわけがない。

 

パリ協定が成功を収めた最大の理由は、こうしたコスト分担を国際交渉によって決着するのではなく、各国に委ねたからだ。各国のNDCを交渉し始めたら、永遠に交渉が妥結しないことは火を見るよりも明らかだ。

 

トランプ大統領の施策は、基本的に国内エネルギー源のポテンシャルを最大限活用し、国内エネルギー生産の拡大と低廉(ていれん)なエネルギーコストを目指すものであり、地球温暖化という外部不経済を内部化するためのコスト負担に背を向けるものである。

 

こうしたトランプ政権の姿勢は、国内政策に反映されているのであり、パリ協定に残留しようが離脱しようが変わらない。パリ協定に残留したとしても、トランプ政権の国内政策は変わらないし、目標を下方修正することは確実だったからである。

 

この話は次回に続く。

トランプ・リスク──米国第一主義と地球温暖化

トランプ・リスク──米国第一主義と地球温暖化

有馬 純

エネルギーフォーラム

本書では、パリ協定離脱を巡る政権の内幕を探ります。また、トランプ政権の下で米国のエネルギーセクターはどうなるのかなど、トランプ政権のエネルギー政策について冷静に分析した一冊となっています。

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