トランプ政権下での「原子力政策」のゆくえを探る

今回は、トランプ政権下での「原子力政策」のゆくえを探ります。※本連載は、東京大学公共政策大学院教授の有馬純氏の著書、『トランプ・リスク――米国第一主義と地球温暖化』(エネルギーフォーラム)より一部を抜粋し、トランプ政権の下で「米国のエネルギーセクター」はどうなるのか、その行方を探ります。

原子力発電に好意的だが、政策については未だ不透明

米国の原子力発電は、安価なシェールガスと補助金で支援された再生可能エネルギーとの競争に晒されており、最近2年間で4基の原子力発電所が閉鎖した。

 

NEI(原子力エネルギー協会)は、更に8~10基の原子力発電所が市場環境の悪化による閉鎖リスクに晒されているとしている。EIAのエネルギー見通しによれば、米国の原子力設備容量は、既存原子力発電所が退役するに伴い、2040年にかけて漸減していくとされている。

 

トランプ大統領は、選挙期間中から「自分は、原子力エネルギーに好意的である。飛行機が墜落しても人々は飛行機に乗り続けるし、自動車事故があっても、人々は自動車に乗り続けている。原子力発電所の認可プロセスを改革すべきである」と、原子力発電に対して好意的な発言をしている。また、トランプ政権の移行チームがエネルギー省に対して、

 

●天然ガス、再生可能エネルギーとの競争に晒されている原子力発電所を国のインフラの一部として支援する方法はあるか。

 

●原子力発電所の閉鎖を防ぐ方法はあるか。

 

●オバマ政権が放棄したユッカマウンテンの放射性廃棄物処理プロジェクトを再開することに法的制約があるか。

 

●小型モジュール炉を含む新型炉の研究開発活動をいかに活用できるか。商業投資家との協力は可能か。

 

などの質問状を出している。政権の原子力発電に対するポジティブな姿勢が窺い知れる。ペリーエネルギー長官は、テキサス州知事時代に州内の中間貯蔵施設を支持しており、上院ヒアリングの際、オバマ政権時に断念したユッカマウンテン・プロジェクト再開の可能性についても言及した。

 

更にトランプ演説に先立つプレス会見では、

 

「原子力なしのクリーン・エネルギーポートフォリオは考えられない。気候変動問題にポジティブに対応するためには、ゼロ・エミッションの原子力を含めなければならない。原子力を安全に、思慮深く、経済的に行うべきだ。原子力分野での米国の技術面、経済面でのリーダーシップを取り戻すことが必要だ。さもないと中国やロシアがその穴を埋めることになる」

 

とも発言している。

 

NEIをはじめとする原子力産業界は、原発プロジェクトがトランプ大統領の重視する巨大インフラであり、標準的な原子力発電所は、400~700名の雇用、4000万ドルの賃金を生み、地域経済に4・7億ドルの貢献をするなどの数字を通じて、原子力発電所の雇用創出力や地域経済への貢献を強調し、政権の支援を期待している。

 

2017年6月末のエネルギー演説において、トランプ大統領が「原子力を再生させる。そのための政策をレビューする」という方針を打ち出したのは、こうした流れに沿ったものであるが、問題は、原子力を再生させるための具体的な施策の中身である。

 

政策見直しの方向性としてまず考えられるのは、原子力規制委員会による新型炉のライセンスを含む規制プロセスの合理化、短縮化である。

 

米国の原子力発電所は政府規制に関わるペーパーワーク(文書事務)に年間420万ドル、86名のスタッフを要し、原子力規制委員会をはじめとする規制関連諸手数料に1400万ドルを支払っているとされる。新型炉のレビュー合理化のために、エネルギー省のスーパーコンピューターを利用するという議論もある。

まずは「FERC」を機能する状態にすることが先決か

原子力産業界からは、原子力の有するベースロード、ゼロ・エミッション電源としての価値を評価する仕組みに対する期待もある。

 

例えば、イリノイ州、ニューヨーク州では、ZECs(Zero Emissions Credits)のようなインセンティブが付与されている。ZECsとは、原子力発電所の発電量に対するクレジットの固定価格買取制度であり、ニューヨーク州では2017年から12年間買い取られることになる。買い取り費用は、小売り事業者が販売電力量に応じて負担し、最終的には電気料金から回収されることになる。

 

これを連邦レベルで導入するとなるとFERC(米国連邦エネルギー規制委員会)の作業が必要になるが、トランプ政権発足後、FERCの定足数が埋まっていない状況が続いており、まずはFERCをきちんと機能する状態にすることが先決だろう。

 

また、ペリーエネルギー長官は、新型炉、SMR(小型モジュラー炉)を含む技術開発の重要性を強調している。

 

トランプ大統領の予算教書では、エネルギー省の原子力関連の技術予算の大幅削減、先端技術への融資保証プログラムの廃止などにより、原子力関連予算はマイナス31%のカットがされた。

 

エネルギーシンクタンクThird Wayのジョシュ・フリード副所長は、

 

「原子力を推進するという一方で、新型炉にとって不可欠なイノベーション予算や融資保証予算に大鉈が振るわれている。エネルギー市場は、詰まるところお金で動く。言葉だけのレトリックでは、原子力は救えない」

 

と批判しているが、幸いなことに原子力関連予算は、下院エネルギー水開発小委員会の歳出法案でマイナス5%まで上積みされている。

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連載トランプ政権でどうなる!?「米国のエネルギーセクター」の行方

東京大学公共政策大学院 教授

1959年生まれ。1982年、東京大学経済学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。2002年に国際エネルギー機関(IEA)国別審査課長、2006年に資源エネルギー庁国際課長、2007年に国際交渉担当参事官、2008年に大臣官房地球環境担当審議官、2011年に日本貿易振興機構(ジェトロ)ロンドン事務所長兼経済産業省地球環境問題特別調査員を経て、2015年8月より東京大学公共政策大学院教授、現職。

国際大学客員教授、21世紀政策研究所研究主幹、アジア太平洋研究所上席研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー、東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)シニアポリシーフェローも兼務。気候変動枠組条約締約国会議(COP)にはこれまで12回参加。

主な著書に『精神論抜きの地球温暖化対策―パリ協定とその後』(2016年、エネルギーフォーラム)、『地球温暖化交渉の真実-国益をかけた経済戦争』(2015年、中央公論新社)など。

著者紹介

トランプ・リスク――米国第一主義と地球温暖化

トランプ・リスク――米国第一主義と地球温暖化

有馬 純

エネルギーフォーラム

本書では、パリ協定離脱を巡る政権の内幕を探ります。また、トランプ政権の下で米国のエネルギーセクターはどうなるのかなど、トランプ政権のエネルギー政策について冷静に分析した一冊となっています。

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