前回は、ファミリー企業の「技術」が事業承継に与える影響について取り上げました。今回は、老舗ファミリー企業が、経営環境の変化や技術・製品の進歩にどのように対応すべきかを見ていきます。

創業以来、製造技術を磨き続けた「福田金属箔粉工業」

我々研究チームが実施した上場企業対象の調査によると、装置産業等の業界を除き、優れた技術を保有する製造業でファミリー企業が多く存在していました。横澤利昌教授らの研究によれば、長年、特定市場において技術を磨いてきた老舗のファミリー企業が多く存在しています。これらの老舗企業は、事業承継を通じて技術や技術によって生み出される製品に大きく依存してきました。しかし、エレクトロニクス業界をはじめとして、技術や製品は進歩します。

 

では、この技術や製品の進歩に、老舗企業はどのように対応してきたのでしょうか。この課題について、京都府の福田金属箔粉工業の事例で考えてみましょう。


横澤編(2012)や福田金属箔粉工業のホームページによると、同社は1700年に創業され、今年で創業317年になる老舗企業です。同社は江戸時代に蒔絵や屏風などの装飾用の金箔をつくっていましたが、明治時代に入り加工しやすい真鍮箔の製造を開始し、大正時代に入ると嗜好品市場の広がりからタバコ包装用のスズ箔を製造するようになりました。昭和に入ってからは、プリント配線基板用電解銅箔の製造を行い、戦後はカラーテレビ等のエレクトロニクス産業の成長に伴い、プリント配線基板用電解銅箔は主力製品として成長しました。

 

創業以来の同社の存続と成長の理由は、まさしく金属箔や金属粉の製造技術を経営環境の変化に応じて磨き続けてきたことであるといえます。それだけではありません。時に装飾用品市場、時にエレクトロニクス市場など、金属箔や金属粉の製造技術を用いて、時代に応じた製品を市場導入してきたことがあげられるのです。

技術への依存は、自社の競争優位性を奪うことも・・・

しかし、事業承継を通じて長期的に磨き続けてきた技術といえども、万能ではないことに留意する必要もあります。過去の経営学の研究からは、代替製品や代替品を生み出す技術によって、従来の競争優位の源泉であった自社技術が無力化してしまう可能性が示されています。

 

前回の連載で、企業の製品や技術とは、顧客の問題解決を図る能力であると書きました。例えば、パソコンのデータの保存という問題に対して、以前はフロッピーディスクという製品が顧客の問題解決を図ってくれていました。他方、現在はUSBメモリ等、品質や機能が遥かに向上した代替品が市場で普及しています。同じような現象として、フィルム写真機からデジカメ(今ではスマホ)などの事例でも見られます。

 

このように、企業は事業承継を通じて技術を磨き上げていくことも重要です。他方、技術に依存しすぎると、代替品やそれを生み出す新技術に自社の競争優位性を奪われてしまう可能性もあることを認識しておくことが重要となります。

 

<参考文献>
落合康裕(2016)『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』白桃書房.

後藤俊夫・落合康裕編(2015)『ファミリービジネス白書2015年度版:100年経営をめざして』同文館.

福田金属箔粉工業株式会社ホームページhttps://www.fukuda-kyoto.co.jp(アクセス日:2017年9月6日)

横澤利昌編(2012)『老舗企業の研究[改訂新版]』生産性出版.

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    本連載は書下ろしです。原稿内容は掲載時の法律に基づいて執筆されています。

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