前回は、老舗ファミリー企業が、経営環境の変化や技術・製品の進歩にどのように対応すべきかを取り上げました。今回は、中小ファミリー企業による「産業集積」の概要とメリットについて見ていきます。

企業相互間で「集積」の利益を享受

産業集積とは、単一の産業もしくは複数の関連産業の企業群が地理的に集合して産業構造を形成したものです。東京の大田区や関西の東大阪市における金型の町工場などの中小企業群を想像すると分かりやすいでしょう。

 

日本の産業集積では、中小のファミリー企業で構成されているものが少なくありません。中小のファミリー企業は、事業承継を通じて企業同士が密接に関わり合いながら、技術を磨き事業存続してきたといえるでしょう。中小のファミリー企業が産業集積を形成する理由は、企業相互間で集積の利益を享受するためであると考えられています。

自社の周辺産業・補助産業の成長が、自社利益に繫がる

産業集積における集積の利益には、大きく分けて技術(供給)サイドと市場(需要)サイドの二つの利益が考えられます。最初に、技術サイドの観点から考えていきましょう。

 

第一に、地理的な近さから企業間の技術交流が増加することです。例えば、技術者同士が相互に関わり合うことで新たなアイデアや要素技術が生まれる可能性があります。イノベーションの源泉となる可能性もあります。

 

第二に、自社の周辺産業もしくは補助産業が成長することで、自社の利益が増えることがあげられます。金型メーカーの技術進歩によって、川下にあたる製品成形メーカーが受注増に伴う利益を得られるようなものです。産業集積内の中小ファミリー企業は、経営者の事業承継にあたり、企業間の技術的な相互の関係性を維持する必要があります。産業集積内の中小ファミリー企業にとっては、密接な技術的コミュニケーションを維持することが互いの事業存続を図る手段であるといえるでしょう。

技術的な連携により、大手企業の注文にも対応可能

次に、市場サイドの観点から考えてみましょう。個々の中小ファミリー企業が安定的かつ一定数量の発注を行う大手企業を開拓することは容易なことではありません。たとえ開拓できたとしても、単体の中小ファミリー企業が大手企業の要求する技術水準に対応すること、または発注数量の増加に対応することは困難であるといえるでしょう。

 

産業集積が複数の中小ファミリー企業で構成されているからこそ、大手企業からの注文を技術的に連携して対応できるのです。反対に大手企業は、集積内で各企業が連携して問題解決を図ってくれると期待しているからこそ、大口案件を産業集積に持ち込むと考えられるかもしれません。


産業集積内の中小ファミリー企業は、集積の利益に依存するからこそ、負の効果も考えられます。それは、個々の中小ファミリー企業の関係や連携が崩れた時に、産業集積全体の存続が厳しくなることです。それだけではありません。産業集積のタイプにもよりますが、マーケティング機能が弱いことです。産業集積において技術は存在するが、その技術が生かされる市場を見つけ出す働きが弱いということができます。この課題については、次回以降の連載で考えていくことにしましょう。

 

 

<参考文献>

井原久光(2003)『テキスト経営学[第3版]基礎から最新の理論まで』ミネルヴァ書房.
落合康裕(2016)『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』白桃書房.

 

本連載は書下ろしです。原稿内容は掲載時の法律に基づいて執筆されています。

事業承継のジレンマ

事業承継のジレンマ

落合 康裕

白桃書房

【2017年度 ファミリービジネス学会賞受賞】 【2017年度 実践経営学会・名東賞受賞】 日本は、長寿企業が世界最多と言われています。特にその多くを占めるファミリービジネスにおいて、かねてよりその事業継続と事業承継が…

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