前回は、企業に広がる「経理・会計業務のアウトソーシング化」 を取り上げました。今回は、適切な経営判断を下すために、経営者が見るべき会社の数字について解説します。

「売上」は会社の成長度のメルクマール

経理部長らの手で適切に維持・管理された会計インフラを通じて、経営者はさまざまな会計データを正しく把握することが可能となります。では、それらの「会社の数字」を使って会社を成長させていくためには、具体的にどのような数字に注意を向けることが必要となるのでしょうか。

 

まず、第一に見るべきは「売上」の数字です。

 

企業が大きく成長していくためには、銀行や投資家など外部からの資金が必要になります。しかし、売上が増えない会社に対しては、銀行は融資に前向きになれませんし、投資家も出資しようなどとは思いません。

 

また、売上が変わらない状態で利益を上げ続けるためには、コストダウンをするしか手がなくなります。つまり売上が伸びない状況では、経営者が打てる経営上の選択肢が著しく狭まってしまいます。

 

自社の経営がこのような閉塞した状況に陥ることを避けるためにも、経営者には、会社の成長度のメルクマールとして売上を常に意識し、そしてその数字を伸ばすためには何をすべきなのかを絶えず考え続ける姿勢が求められることになるのです。

 

なお、売上をチェックする際には、年次だけでなく月次で細かく見ていくことにより、数字の〝変動〟に対する感覚を養っていくことが必要になります。数字の変動を日ごろから意識し続けていれば、自社の成長スピードが鈍化し停滞期に入ったような場合にも、その兆しにいち早く気づき、適切な経営判断を下すことが可能となるはずです。

売上アップでも、営業利益が増えるとは限らない理由

数ある「会社の数字」の中で、第二に注目すべき数字は「営業利益」になります。

 

売上と営業利益は両輪の関係であるため、それぞれの月次の数字を同時にウオッチングしていかなければなりません。

 

中小企業の経営者の中には、「売上をアップし続ければ、営業利益も当然増えていくはず」と思い込み、売上の数字ばかりを見ている人もいます。

 

しかし、次のようなケースでも、果たして「売上が上がる→営業利益が増える」という関係が成り立つといえるでしょうか。

 

(ケース)

甲社では、営業マンに対して売上に応じて特別ボーナスを与えるインセンティブを設けていた。営業担当のAは特別ボーナスを得たいがために粗利が1割5分しかない商品を2割引きで顧客に販売していた。

 

このケースにおいて、Aは粗利が1割5分しかない商品を2割引きで売却しているのですから、売上が上がれば上がるほど営業利益は逆にマイナスになってしまいます。このように、「売上が上がったからといって営業利益が増えるとは限らない。むしろ減ることさえある」という事実を経営者はしっかりと認識しておく必要があるでしょう。

忙しい社長を救う 経理改革の教科書

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李 日生,普川 真如

幻冬舎メディアコンサルティング

公認会計士として大手監査法人に勤め、国内外の多数の大企業の監査業務を担当してきた著者たち。経理・会計の専門家としての立場から中小企業の経営をサポートし続けてきました。こうした経験の中で、中小企業は経理部を社内に…

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