退職後の生活では、年金の受給開始時期を工夫し、老後の収入を増やそうと考える人もいるでしょう。一方、繰下げ受給によって年金額が増えても、想定していなかった事態に直面するケースも。年金をいつから受け取るかは、増額率だけでなく、健康状態や貯蓄、家計の見通しも踏まえて考える必要があります。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。
「年金は増えたけど、なんで空しいんだろう…」〈年金月19万円〉→〈27万円〉に増額の72歳元管理職、「繰下げ受給」を喜んだ2年後に後悔したワケ ※写真はイメージです/PIXTA

年金の繰下げ受給は「増額」だけで判断できない

高橋さんは、繰下げ受給を選んだこと自体を間違いだったと断定しているわけではありません。受給額が増えたことには満足しています。それでも、「もし年金を通常通り受け取っていたら……」と、思いを馳せることも多いといいます。

 

厚生労働省『令和7年簡易生命表』によると、2025年の平均寿命は男性81.35歳、女性87.33歳でした。また70歳男性の平均余命は15.78年。ちなみに65歳男性の平均余命は19.68年。老後資金を考える際には、長生きに備える必要がある一方、健康状態や支出が変わる可能性も考慮することが大切です。

 

繰下げ受給には、年金額を増やせるメリットがあります。一方、受給を待つ期間は年金が支給されないため、その間の生活費を給与や貯蓄などで賄わなければなりません。「増えた年金の使い方」についても、色々な考え、色々な思いがあるでしょう。

 

日本年金機構によると、繰下げ受給では、老齢基礎年金と老齢厚生年金を別々に繰り下げることも可能です。ただし、加給年金額など、繰下げによる増額の対象にならないものもあります。制度の仕組みを正しく理解することはもちろん、自身の受給見込額や家計に与える影響を事前にしっかり確認しておきたいところです。

 

高橋さんは「お金の使い方」について、妻とも話し合うようになりました。

 

「これまで『お金があれば安心・安全』ということばかり考えてきました。でもそれで心が満たされることはない。適切な範囲で使わないと絶対後悔すると思ったんです」

 

年金の繰下げ受給は、誰にとっても最適解とは限りません。受給開始を遅らせるかどうかは、増額率だけでなく、退職後の収入、貯蓄、健康状態、家族の生活設計などを踏まえて判断することが重要です。