30代で独立し、長年にわたり高い所得を得てきた59歳男性。子ども2人の教育を終え、これから老後資金を貯めるつもりでした。ところが、共同経営者の早期引退をきっかけに将来の収入を見直すと、思い描いていた老後とは大きな隔たりがあることに気づきます。FPの三原由紀氏が解説します。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。
「嘘だ、こんなに稼いでいるのに…」事業所得1,500万円・預貯金2,750万円の59歳男性、老後資金はこれから貯めるつもりが一転。〈76歳で預貯金が底をつく〉現実
「教育費が終われば、老後資金は貯められる」と思っていた
「これからが、ようやく自分たちの老後資金を貯める時期だと思っていたんです」
そう話すのは、専門職の事務所を共同経営する59歳の渡邊健一さん(仮名)です。
渡邊さんは30歳で独立し、同業の友人と事務所を経営してきました。独立当初は収入が安定せず、幼い子ども2人を抱える家計に余裕はありませんでしたが、40歳ごろから事業は軌道に乗り、年間の事業所得は1,500万円ほどに。以来、15年以上にわたり高い所得を維持してきました。
妻(59歳)は出産を機に仕事を離れましたが、子どもたちが成長してからパート勤務を始め、その後正社員に。現在の年収は360万円ほどで、60歳定年時の退職金は300万円ほどを見込んでいます。
夫婦が何より優先してきたのは、2人の子どもの教育です。
「子どもたちには、将来自分の力で生活できるよう、手に職をつけてほしかったんです」
長男、長女ともに中学受験を経て私立の中高一貫校へ進学。長男は私立大学で建築を学び、大学院まで進みました。長女は私立大学の薬学部で6年間学びました。受験準備なども含め、2人にかかった教育費は総額で約3,300万円です。
卒業後はそれぞれ希望する仕事に就き、親元を離れて生活しています。夫婦には「親としての責任を果たせた」という満足感があり、教育費をかけたことを後悔しているわけではありません。
一方、渡邊さんの母親が高齢者施設に入居した際には、母親自身の年金や預貯金で賄いきれない費用として、月8万円ほどを5年間援助しました。
こうして子どもの教育、親の介護と、家族のためのお金を優先してきた渡邊さん夫婦。自分たちの老後については、「教育費などが終わってからでも貯められる」と考えていたのです。
渡邊さんは国民年金基金には加入していたものの、独立後の収入変動に備えて手元資金を厚めに持つことを優先し、投資は後回しにしていました。
それでも、教育費や親への援助が終わると、預貯金は目に見えて増え始めます。59歳時点で約2,750万円。
「この調子なら、70歳まで働いて老後資金をもっと増やせる」
そう考えていた矢先、長年一緒に事務所を経営してきた友人が、健康上の理由で予定より早く引退することになったのです。