日本の法律では、婚姻中に築いた財産は原則として2分の1ずつ分与されます。そのため、夫婦の共有財産が最大化したタイミングは、妻にとって最も有利な離婚の機会となり得るのです。本記事では、徹底した節約生活で約1億円の資産を築き、FIREを達成した直後に、妻から予期せぬ“三行半”を突きつけられた54歳男性の事例をもとに、山村法律事務所の代表弁護士・山村暢彦氏が「財産分与」の仕組みや注意点について解説します。
「あんたなんて、ただの無職」54歳夫が〈資産1億円〉で念願のFIRE達成も…1ヵ月後、51歳妻が〈離婚届〉を突きつけたワケ【弁護士が解説】
「あんたなんて、ただの無職じゃないの」毎日家にいることに精神的苦痛
FIRE後のタカユキさんは、毎日家で「自分はこれだけの資産を築いた賢い人間だ」と自慢を繰り返すばかり。
その一方で、運用計画を守ることに躍起のタカユキさんは、相変わらず生活費の支出に口うるさく、サユリさんがたまに友人とランチに行くことすら渋るようになりました。
サユリさんにとってタカユキさんは、いまやお金を稼ぐ能力を捨て、毎日家で節約を強いるだけの無職です。「あなたなんて、ただの無職じゃない……」と感じているサユリさんは、そんなタカユキさんと一緒に暮らす理由を完全に見失っていました。
タカユキさんは「毎日一緒にいられるから、FIREを喜んでくれるはずだ」と思い込んでいましたが、ひとりよがりでした。
夫とのセカンドライフは、サユリさんにとっては精神的苦痛をもたらすものでしかありませんでした。もしサユリさんの要求通りに離婚が成立し、財産分与が行われれば、タカユキさんの手元には5,000万円しか残りません。
タカユキさんが想定していたFIREの資金計画は完全に崩壊し、生活を維持するためには再び働きに出るしかなくなります。一生働かずに生きるはずが、50代半ばにして過酷な再就職を余儀なくされるのです。
「こんな一方的な理由で、苦労して築いた資産の半分を持っていかれるなんて、絶対に納得できない」
怒りと焦りを感じるタカユキさん。果たして、今回のように妻からの一方的な理由で離婚は成立してしまうのでしょうか。
また、タカユキさんが築いた資産はすべて財産分与の対象となり、本当に半分を手放さなければならないのでしょうか。
【弁護士が解説】自分が築いた1億円でも「財産分与」で半分を失うのか?
結婚後に夫婦で協力して築いた財産を、離婚の際に分ける「財産分与」という仕組みがあります。
財産分与は、夫婦それぞれの貢献を同程度と考え、対象となる財産を2分の1ずつ分けるのが一般的です。そのため、FIREを目指して長年働き、節約や投資を続けてきた夫からすれば、「自分が築いた資産なのに半分も渡すのか」と納得しにくいかもしれません。
しかし、夫名義の預貯金や株式であっても、結婚後に夫婦の生活のなかで形成された財産であれば、原則として財産分与の対象になります。妻が専業主婦であったとしても、家事や育児などによって家庭を支えてきたことも夫婦の財産形成への貢献として考えられます。
もっとも、1億円すべてを必ず半分にするわけではありません。結婚前から所有していた財産や、相続・贈与で取得した財産などは、原則として財産分与の対象外です。退職金についても、結婚していた期間などを踏まえて対象となる範囲を検討します。また、妻が離婚を希望しただけで、夫の意思にかかわらず直ちに離婚できるわけではありません。
FIREを考える際には、資産額だけでなく、退職後に夫婦がどのような生活を送りたいのかまで共有しておくことも大切でしょう。
山村 暢彦
弁護士法人山村法律事務所
代表弁護士
※個人の特定を避けるため、事例の一部を脚色しています。
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