「家族が近くにいる安心」が、孤独を感じさせるものになったワケ

「孫と一緒に暮らせるのは、やっぱり幸せですよ」

そう話すAさん(70歳)は、息子夫婦と孫とともに二世帯住宅で暮らしています。ただし、キッチンやトイレ、玄関などもそれぞれ独立した完全分離型。息子夫婦は平日は終日仕事で、孫も保育園から一緒に帰ってくるため、生活時間や暮らし方は大きく異なります。

建築時にはAさん夫婦も資金援助をしましたが、入居後は「お嫁さんに気を遣わせたくない」と、経済的にも、それぞれ独立した生活をしてきました。

お互いが独立して、たまに顔を合わせる距離感はAさんにとって心地よいものでした。息子家族の気配を近くに感じながら、自分たちは自分たちのペースで暮らせる。だからこそ、それぞれの生活を尊重し、介護に備える民間保険にも加入。「いざとなったら施設に入るから、あなたたちに迷惑はかけない」と息子夫婦に伝えていました。

ところが昨年、Aさんの眼前の景色が大きく変わる出来事がありました。3歳年上の夫が亡くなったのです。

二人で囲んでいた食卓は1人に。息子夫婦は相変わらず毎日忙しそうです。夜になると、以前は気にならなかった息子夫婦や孫の声が遠くから聞こえてきます。かつては「家族が近くにいる安心」を感じさせてくれた声が、いまはかえって、自分が一人であることを意識させるようになったそうです。

「ここで倒れても、すぐには気づいてもらえないのかなって。変ですよね、家族と一緒に住んでいるのに」。Aさんは寂しそうにそう漏らしました。

同居していても、孤独を感じる

家族と同じ家に住んでいれば、孤独とは無縁なのでしょうか。

内閣府の「人々のつながりに関する基礎調査(令和7年)」では、三世代世帯(親と子と孫)で暮らす人のうち、「孤独感がしばしばある・常にある」と直接質問に答えた人は2.6%でした。一方、「孤独」という言葉を使わず、「取り残されていると感じる」など3つの質問から孤独感を測る間接質問では、孤独感が最も強い10~12点となった人は4.8%でした。一人世帯では、それぞれ9.8%、11.3%です。三世代で暮らす人のほうが孤独感の強い人の割合は低いものの、家族と同居していれば孤独を感じないというわけではないことがうかがえます。

そして、Aさんが強い孤独を感じるきっかけとなった「死別」も、孤独と無関係ではありません。同調査で、孤独感を「しばしばある・常にある」「時々ある」「たまにある」と答えた人に、現在の孤独感に影響を与えたと思う出来事を尋ねたところ、「一人暮らし」が19.4%と最も多く、次いで「家族との死別」が15.3%でした。一方、孤独感が「決してない」「ほとんどない」と答えた人で「家族との死別」を挙げた割合は5.5%でした。

配偶者との死別によって失われるのは、大切な人の存在だけではありません。その方との毎日の会話や食事、ちょっとした気遣いや思いやりなど、それまで当然にあった生活の接点も一緒に失われます。

Aさんの場合、もともと「子どもに迷惑をかけたくない」という思いも強くありました。完全分離型の二世帯住宅も老後資金の準備も、民間介護保険への加入も、すべてはそのための準備でした。ところが、夫を亡くしたあとの暮らし方や寂しさは、手つかずのままだったのです。