修復不可能な親子の溝…「負動産」が引き裂く家族の縁

相続放棄は亡くなったあとに家庭裁判所で手続きするものであり、生前に親が子に対して強制できるものではありません。ヨシエさんの言葉は法的な効力を持たない単なる感情のぶつけ合いですが、マサヒコさんは重く受け止めました。

数日後、マサヒコさんのもとに親戚から電話があり、ヨシエさんが「息子には家を渡したくないから、相続させない方法はないか」と相談して回っていることを知らされました。

生前に特定の相続人の権利を完全に奪うことは難しく、現実的には遺言書を書く程度しか方法はありませんが、実家を巡る親子の溝はもはや修復不可能なほど深まってしまいました。

マサヒコさんのもとには、現在もヨシエさんからの直接の連絡はなく、実家の管理問題も手つかずのまま放置されています。親が守り抜きたい「過去の思い出」と、子が直面する「現実的な負担」。実家の相続問題は、ときには家族の縁すらも断ち切りかねません。

このように、実家の相続を巡って親子の意見が対立し、親から「相続放棄」を迫られた場合、法的にはどのような対応が考えられるのでしょうか。

【弁護士が解説】親が生前に「相続放棄」を強要することはできるのか

まず、相続放棄は相続開始後に相続人自身が家庭裁判所で行う手続きであるため、親が生前に「相続放棄しろ」と求めても法的な効力はありません。

息子に相続させたくないのであれば相続人の廃除も考えられますが、虐待や重大な侮辱、著しい非行などが必要で、本件のように「実家を継ぐ意思がない」という程度で認められる可能性は低いでしょう。

そうなると、親戚など第三者に財産を遺贈する方法も考えられますが、遺留分の問題も残りますし、長年守ってきた実家を「息子には渡したくないから第三者へ」という結末も、どこか寂しいものです。

結局、この問題は法律だけでは解決しにくいように思います。実家を維持する経済的負担と、そこで暮らし続けたいという親の精神的な満足を、家族でどう折り合いをつけるかが中心になります。

基本的には親自身の財産ですから、子どもとしては可能な範囲で維持を手伝い、相続後に自分の代で売却や処分を検討する、という現実的な選択肢もあるでしょう。親の希望と子どもの負担、その双方を踏まえて生前に話し合っておくことが重要です。

山村 暢彦
弁護士法人山村法律事務所
代表弁護士

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