遺産相続の場では、法定相続人ではない身内の介入によって協議が泥沼化することもあります。節税などの「正論」を口実にした無神経な言動が、家族の絆を引き裂いてしまうケースも少なくありません。本記事では、弁護士法人山村法律事務所の代表弁護士・山村暢彦弁護士が、遺産9,000万円の相続協議に割り込んだ長女の夫の事例をもとに、相続における親族間の関わり方について解説します。
「義母さんはどうせ長くないんだから」遺産9,000万円の相続協議に割り込んだ46歳・長女の夫。リビングを凍りつかせた〈外野のひと言〉【弁護士が解説】
遺産9,000万円の相続…四十九日を過ぎた実家に現れた「招かれざる客」
都内近郊で暮らすタカヒロさん(仮名・47歳)は、半年前に父親を78歳で亡くしました。残された母親のヨシエさん(仮名・74歳)は実家で一人暮らしをしています。
父親が遺した財産は、実家の土地建物(評価額約4,000万円)と預貯金5,000万円の、合計9,000万円でした。
四十九日が過ぎ、実家のリビングで遺産分割の話し合いが行われることになりました。集まったのは、タカヒロさん、ヨシエさん、そして妹・マユミさん(仮名・44歳)の3人……のはずでしたが、そこにはマユミさんの夫であるコウジさん(仮名・46歳)の姿もありました。
コウジさんは金融関係の企業に勤めており、「相続の手続きは複雑だから、知識のある自分がサポートする」と自ら同席を申し出たのです。マユミさんも「夫がいてくれたほうが心強い」と深く考えずに連れてきていました。
「義母さんはどうせ長くはないんだから」正論が招いたひと言で凍りつくリビング
タカヒロさんが「母さんがこのまま実家に住み続けられるようにして、残りの現金5,000万円は母さんが半分、僕とマユミで残りを分けよう」と提案し、ヨシエさんもうなずきました。
しかしその直後、法定相続人ではないコウジさんが口を出してきました。
「お義兄さん、そんな分け方をしたらあとで損をしますよ。お義母さんが現金を多く相続したら、次の『二次相続』でまた高い税金がかかってしまいます」
たしかに節税の観点から言えば、コウジさんの主張は間違っているわけではありません。しかし、そのあとに続いた言葉がリビングを凍りつかせました。
「お義母さんはもう70歳過ぎだから、何千万円も現金を持っていても使い道がないでしょう。どうせ長くはないんだから、実家だけ相続して、現金は全部子ども世代で分けるべきです」
母親の命を軽視する無神経な暴言に、普段は温厚なタカヒロさんも激怒しました。
「母さんに向かってなんてことを言うんだ! 今すぐ出て行け!」
結局、コウジさんは家を追い出されましたが、本人は「家族が損をしないように正論を言ってやったのに」と不満げな顔をしており、自分の非を理解していませんでした。
その後、コウジさんを完全に排除した状態で、タカヒロさんたち法定相続人のみで遺産分割協議は無事にまとまりました。
しかし、ヨシエさんは「自分のせいで娘夫婦が揉めているのではないか」と心を痛め、マユミさんも夫の非常識な振る舞いへの不信感を拭えずにいます。
果たして、法定相続人ではない親族が遺産分割協議に介入することや、今回のような発言は法的にどのような問題があるのでしょうか。