30年以上結婚していても…年金分割後の見込額は「月11万円前後」

ほどなくして、恵美さんは年金事務所を訪れ、離婚時の年金分割について確認しました。年金分割には「合意分割」と「3号分割」があります。3号分割では、2008年4月以降の第3号被保険者期間について、相手の合意がなくても厚生年金の記録を2分の1ずつに分割できます。

30年以上結婚しているのだから「夫の年金のかなりの部分をもらえる」と漠然と思っていた恵美さん。しかし、婚姻期間すべてが3号分割によって自動的に2分の1になるわけではありません。年金事務所で確認した3号分割後の年金見込額は、65歳から月11万円前後でした。

「思っていたより少ない......」

不安になった恵美さんは、友人から紹介されたFPのもとを訪れます。FPは、恵美さんに年金見込額とは別のことをたずねました。

「65歳になるまで、あと7年あります。その間の生活費はどうされるおつもりですか?」

恵美さんは答えに詰まりました。現在のパート収入は月9万円。離婚すれば、夫の給与を前提とした家計から自分一人の家計に変わります。財産分与や合意分割で年金額が増える余地はあっても、働き方や住まい、貯蓄の取り崩しまで含めて考える必要があります。「年金分割があるから何とかなる」と思っていた恵美さんは、初めて離婚後の生活を具体的な数字で考え始めました。

こうした思い込みは、恵美さんだけのものではありません。年金分割の対象は婚姻期間中の厚生年金記録に限られ、老齢基礎年金や結婚前・離婚後の期間は含まれないため、「長年連れ添ったのだから」という感覚と実際の受給額との間には、多くの人が想像する以上の差が生まれやすいのです。

離婚しなければ、将来受け取れる年金が5万円増える

FPは、離婚した場合だけでなく婚姻を続けた場合についても整理していきました。58歳から65歳までの収入と支出、65歳以降の年金、夫婦の資産。夫婦そろって65歳を迎えれば、2人合わせて月26.6万円ほどの年金になります。そのうえで、将来夫に先立たれた場合に受け取れる年金の見込額についても、現在の年金記録をもとに試算しました。

「現在の記録をもとに概算すると、ご主人に先立たれた場合、遺族年金を含めた恵美さんの年金は月16万円前後が一つの目安になります」

月16万円という数字は、3号分割後の見込額(月11万円前後)より約5万円多い水準です。夫婦そろって受け取れる26.6万円と比べれば少なくなりますが、それでも独りで生活していくうえでは、離婚した場合より安心材料が大きいといえます。

もちろん「離婚しないほうが得」と単純に決められるわけではなく、財産分与や働き方・住まいの見直しで一人でも生活は組み立てられます。ただ、婚姻を続けたほうが老後の経済的な安心度は高くなる――。その違いが、恵美さんにも具体的に見えてきました。