数ヵ月に一度、居酒屋で仕事の愚痴や先々の不安を語り合う間柄だった友人から、「実は、先月会社を辞めたんだ」というまさかの告白。「なぜ言ってくれなかったんだ」「俺はこのままでいいのか?」――そんな思いに苛まされることになった55歳会社員の事例とともに、サラリーマンという立場を離れることの自由と代償を、FPの青山創星氏が解説します。
老後が不安だと、あんなに語り合ってきたのに…30年来の友人が、まさかの〈4,500万円でFIRE〉。「おめでとう」と言えなかった55歳会社員“複雑な心境”の理由【FPの解説】
焦らず、自分の歩幅で歩けばいい
永瀬さんとの相談を経て、池上さんはねんきん定期便で年金を確認し、家計を見直し、無理のない範囲で積立投資を検討し始めました。
「白石のようにはなれないし、なる必要もないと思うようになりました」
そう池上さんは話します。
白石さんとは、あれから頻繁には会っていません。かつて老後不安を語り合ったときに彼が内心どう思っていたのか、知るすべはありません。
それでも先日届いた「元気か」という一言に、池上さんは短く返信しました。元の関係には戻れないと思いつつ、「話してくれてありがたかった」という気持ちも、今はたしかに残っています。それでも、気軽に誘い合うことはもうできないのかもしれません。
妻とのんびり近所を歩くことや、息子の就職の話を聞くことが、今の池上さんにとって、お金には代えがたい時間になっています。 誰かと比べて落ち込むことがあれば、比べる相手は他人ではなく、少し前の自分の数字でいいのかもしれません。
もし身近な人が、言いにくい本音を正直に打ち明けてくれたなら、それを感謝で受け止めることも、一つの答えではないでしょうか。
注1:総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2025年平均」によれば、65歳以上・夫婦のみ無職世帯の消費支出は月263,979円、実収入は254,395円、平均消費性向は119.2%。
https://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/pdf/fies_gaikyo2025.pdf
注2:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査の概況」によれば、60〜64歳の短時間労働者の1時間当たり所定内給与額は男性2,024円、女性1,397円。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2025/dl/12.pdf
注3:白石さん・池上さんの資産シミュレーションは、夫の年金は月17万円、妻の年金は月7万円、想定運用利回り年4.62%(GPIFの2001〜2025年度・過去25年間の名目運用利回り)、物価上昇率年2%の前提のもとに試算。年金にかかる所得税・住民税(国税庁「高齢者と税」の速算表等にもとづく実効税率、世帯合計で年金額の2.8%程度)と、上場株式等の譲渡益・配当への税率20.315%も反映。平均余命は、厚生労働省「令和6年簡易生命表」の55歳男性・53歳女性の平均余命にもとづく概数。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life24/index.html(平均余命)https://www.gpif.go.jp/operation/73509681gpif/unyoujoukyou_2025_01.xlsx(GPIFの運用利回り実績)
青山創星
ファイナンシャル・プランナー