相続対策というと、「相続税をいかに減らすか」に意識が向きがちです。しかし、実務では一次相続だけを見て判断すると、二次相続で思わぬ税負担が発生することがあります。大切なのは、一次相続(父から母への相続)と二次相続(母から子への相続)を切り離して考えるのではなく、家族全体の将来を見据えて総合的に設計することです。今回は、FPの前田敏氏が実際に相談を受けた田中様(仮名・53歳)の事例をもとに、一次相続から二次相続、さらに不動産売却まで見据えた相続対策のポイントをご紹介します。
 「売却時期をずらしただけでこんなに違うの…?」父親の相続財産5,000万円の売却で〈税負担を680万円抑えられたワケ〉

突然訪れた父親の死…二次相続まで見据えて税負担を抑えたい

ご相談のきっかけは、お父様の急逝でした。急性心不全で亡くなられ、遺言書は残されていませんでした。

 

家族構成は、長女の田中様、施設に入居中のお母様、そして独身の妹様の3名です。田中様と妹様はそれぞれ独立して生活しており、お母様は介護施設に入居されています。お母様が自宅へ戻る可能性は低く、今後も施設での生活が中心になる見込みでした。

 

父親の相続財産は約5,000万円

お父様からの相続財産は次のとおりです。

  • 自宅不動産:評価額約5,000万円・路線価約4,000万円
  • 預貯金:約1,000万円

 

田中様と妹様の希望は、「父の財産を母に引き継ぎたいが、二次相続まで見据えて税負担を抑えたい」というものでした。

 

一次相続では相続税が発生しない可能性が高い

一次相続では、「配偶者の税額軽減」が適用されます。配偶者が取得する財産については、次のうちいずれか大きい金額まで相続税がかかりません。

  • 1億6,000万円まで
  • 法定相続分まで

 

さらに、相続人が3名であるため、基礎控除額は4,800万円となります。

【相続税の基礎控除額の計算式】
・基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

【田中様家族の相続税基礎控除額】
・3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円

 

今回の財産は、路線価ベースの不動産4,000万円と預貯金1,000万円を合わせて約5,000万円です。葬儀費用などを差し引けば、課税遺産総額は基礎控除額に近くなり、一次相続の税負担はほぼ発生しない可能性が高い状況でした。

 

しかし、ここで「すべて母が相続すれば安心」と考えてしまうと、将来の二次相続で大きな負担を招く可能性があります。