移住先は軽井沢、初めは満喫していたが…

Aさんが移住先として選んだのは、軽井沢でした。避暑地として知られる軽井沢なら近年の酷暑も安心で、インフラ等も問題がないと思ったのです。なんとか妻を説得し、都内のマンションを売って軽井沢に中古の一戸建てを購入。マンションの売却益で購入費を賄うことができたため、老後資金を減らさずに移住を実現できました。

引っ越し翌日は、Aさん夫婦の新たな門出を祝福するかのような晴天。すがすがしい空気と日差しとともに目覚め、妻とお洒落なお店でモーニングを楽しみます。「移住して正解だった」と、Aさんは喜びもひとしおです。

それからというもの、天気のいい日は散歩したあとカフェに入る「朝活」が日課に。やがて、夫婦と同じように移住してきた人たちのサークルに入り、人脈も広がっていきました。

軽井沢移住の想定外

しかし、いざ生活を始めると、移住前には気づかなかった点が少しずつ見えてくるようになりました。

その一つが、金銭面です。夫婦は、「地方生活には車が必須」だと、車を購入。「どうせなら環境にいいエコカーにしよう」と奮発しました。また、スーパーやドラッグストアが思いのほか遠く、ガソリン代がかかります。さらに、ウォーキングを日課にするにあたり、シューズや洋服も新調。週に2回のサークル活動にも、こまごまとしたお金がかかります。

二人は当初「初期投資だよね」と笑って話していましたが、引っ越し費用も含め半年で700万円が消えていました。退職金と貯蓄で3,000万円あった老後資金は、2,300万円に。

Aさん夫婦の年金収入は、280万円(月額23万円)です。都内に住んでいたころは、贅沢しなければ年金だけでやりくりできましたが、移住後は固定費(水道光熱費)や交際費等が想定外にかかり、年金だけでは足らず貯蓄から取り崩すようになりました。

それでも、「少しお金はかかるけれど、いまのうちだしな。サークルも楽しいし、自然は豊かだし、充実している」と生活していたある日のこと。夕食時、妻から相談を受けます。

「サークルの仲間の1人とね、性格的に合わないの。あなたは楽しんでるし、私もサークルは続けたいけれど、その人と顔を合わせるのが嫌で……」

人当たりがよく、いままでママ友やパート仲間、習い事コミュニティでどんなに癖のある人とも上手く付き合ってきた妻。しかし、ほかにコミュニティがないこともあってか、しだいにふさぎ込み、サークル活動に参加しないばかりか、家から出ることも少なくなっていきます。それからひと月ほど経って、妻から再度相談がありました。

「ねえ、都内に帰りたい」

Aさんが「それは簡単にはできない」と難色を示すと、妻は、都内で暮らす息子夫婦に「寂しいから迎えにきて」とこっそり連絡。Aさん夫婦と息子夫婦で話し合いの場がもたれることになりました。

「Aがこのまま住み続けるなら、離婚しても構わない」

そう言い出す妻に、Aさんはそこまで思い詰めていたとは知らず、思わず言葉を失います。息子夫婦は共働きで、教育費のかかる子どももいることから、「母親の面倒までみるのは難しい。父さん、考え直してくれないか」と説得され、Aさんは決心。Aさんの夢のセカンドライフは10ヵ月ほどで終わりを迎えることになりました。