安倍政権が「働き方改革」を推し進めてから早7年あまり。残業がほとんどないいわゆる「ホワイト企業」が増えた一方で、いまだに月45時間を超える残業を強いられる人も……。こうした企業では、上司による「パワハラ」が心身を追い詰め、休職や退職を余儀なくされるケースも少なくありません。こうしたなか、パワハラの加害者から口外しないようにと「口止め料」が提示された場合、どのような対応をすべきなのでしょうか。29歳男性の事例を通して、弁護士・山村暢彦氏が解説します。
手取り24万円・29歳男性、「月80時間のサビ残」と「陰湿パワハラ」で休職。後日、上司から届いた〈口止め料100万円〉の誓約書【弁護士が警告】
「解決金100万円を払うから」…自己保身の上司から届いた“口止め”連絡
震えるスマートフォンを見やると、上司から着信が入っています。電話に出られずにいると、すぐに長文のメッセージが届きました。
内容は、会社の人事部には体調不良での自己都合退職として処理したいこと。そして、会社を通さずに上司のポケットマネーから「退職の解決金」として100万円を振り込むので、残業やオンラインでのやりとりについて一切外部に口外しないという誓約書にサインしてほしい、というものでした。
「おそらく、私が親などに相談してパワハラが明るみに出れば、自分の出世や立場が危うくなると焦ったのだと思います。完全に自己保身のための口止めでした」
ケンタさんは葛藤を抱えています。本来なら過去の未払い残業代や慰謝料を合わせればもっと大きな金額になるはずですが、いまのケンタさんには交渉や手続きをする気力はありません。
提示された100万円を受け取って誓約書にサインすれば、明日からもう会社に行かなくて済み、上司の影に怯えることもなくなります。お金で丸め込まれることへの悔しさや不条理さはあるものの、とにかくいまの苦痛から一刻も早く逃れたい一心で、ケンタさんは届いた誓約書を前に悩んでいます。
【弁護士が警告】安易なサインはNG…「口止め料」を提示された際の対処法
ケンタさんのようなケースでまず避けるべきなのは、心身が弱っている状態で、上司個人から提示された誓約書にそのまま署名してしまうことです。
未払い残業代やパワハラによる慰謝料、休職や労災の可能性、退職理由の扱いなど、本来整理すべき論点が複数あります。上司が会社を通さずに金銭を支払い、「外部に口外しない」と求めている時点で、かなり不自然な対応といえるでしょう。
特に、月80時間を超える残業がサービス残業として処理されていたのであれば、未払い残業代だけでも相当額になる可能性があります。また、暴言や過重労働によって適応障害を発症したのであれば、会社の安全配慮義務違反や労災申請が問題になり得ます。
もちろん、本人が一刻も早く会社や上司から離れたいと思うのは当然だと思います。ただし、早く終わらせたい気持ちと、不利な条件で権利を放棄してしまうことは別問題です。
チャット、録音、勤怠記録、診断書、上司からのメッセージなどを保存したうえで、労働問題に詳しい弁護士や労働基準監督署に相談すべきです。退職や解決金の合意は、内容を確認してからでも遅くありません。
山村 暢彦
弁護士法人山村法律事務所
代表弁護士
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