近年は家賃補助や住宅手当など、福利厚生を充実させる企業が増えています。そのため、「持ち家を購入するより賃貸のほうが得」と考える方も少なくありません。しかし、こうした補助の多くは退職と同時に終了します。そのため、現役時代は問題なく支払えていた家賃が、老後には大きな負担となることもあります。本記事では、65歳男性の事例をもとに、定年退職後に住居費負担が重くのしかかり、故郷へのUターン移住を決断するまでの経緯について辻本剛士CFPが解説します。
「家賃補助がないと無理…」〈退職金2,000万円・年収1,200万円〉65歳男性、充実した東京暮らしを手放し〈年金月8万円の母〉が住む実家へ「Uターン移住」の現実【CFPが解説】
「家賃補助があるから大丈夫」…長年住み続けた〈家賃30万円〉の都内賃貸
キョウスケさん(65歳・仮名)は、大手商社に勤務する会社員です。年収は1,200万円で、数年前に離婚し、現在は都内の2LDKマンションで一人暮らしをしています。
都心ということもあり、家賃は月30万円です。しかし、勤務先の福利厚生が充実しており、家賃の半額にあたる15万円を会社が負担してくれていました。そのため、実質的な自己負担は月15万円で、家計への負担はそれほど大きくありませんでした。
就職してからというもの、キョウスケさんはずっと賃貸暮らしです。妻がいたころ、40代後半には持ち家の購入を検討したこともあります。高年収ということもあって、郊外であれば十分手の届く価格帯の物件もありましたが、結局「家賃補助があるうちは賃貸のほうが得だろう」と、購入を見送ってきました。
また、キョウスケさんにとって、都心で暮らすこと自体に手放しがたい価値がありました。
休日は映画館に出かけたり、気になる飲食店を開拓したりするのが趣味。平日は会社帰りにスポーツジムへ立ち寄り、汗を流してから帰宅します。駅近のマンションということもあり、買い物や外食にも困りません。
「一人暮らしは気楽だし、都内はなにをするにも便利だ」
そんな生活にキョウスケさんは大きな満足を感じていました。
そして、迎えた定年退職の日。会社から受け取った退職金は2,000万円です。「これからは自分の時間を楽しみながら、のんびり暮らしていこう」と、キョウスケさんは第二の人生に期待を膨らませていました。
家賃だけで年金超え…退職後に突きつけられた“福利厚生終了”の現実
それから間もなくして、キョウスケさんが退職したことで、会社の福利厚生である家賃補助は終了しました。補助がなくなること自体は理解していたものの、月15万円から30万円へと倍増した家賃負担は想像以上でした。
「毎月30万円の家賃を払い続けるのは、思った以上に厳しい……」
一方で、受け取れる年金額は月18万円程度です。家賃だけで年金収入を上回り、キョウスケさんは資産を取り崩す生活が始まりました。
定年時には退職金2,000万円と貯金700万円を合わせて2,700万円あった資産も、年間約360万円の赤字によって急速に減少。わずか2年で2,000万円を下回ろうとしています。当初は十分だと思っていた退職金も、このペースなら10年足らずで底をつく計算です。
「このままでは老後を乗り切れないかもしれない」「こんなことなら、賃貸じゃなく持ち家にしておけばよかった」
キョウスケさんは初めて強い危機感を抱きました。
