孫が近所に大集合!

老後の生涯設計、時に予期せぬ方向へと大きく舵を切ることがあります。長女一家に続き、今度は二女一家までもがAさん夫婦のすぐ近くへ引っ越してくることになったのです。二女からはこのように報告を受けました。

「上の子が小学校に入学するのを機会に、お姉ちゃんたちの近くに引っ越すことにしたよ。スープの冷めない距離にいい場所を決められて本当によかった!」

なんと二女一家が選んだのは、Aさん夫婦が住むマンションのすぐ隣の棟でした。

二女一家の2人の子どもの保育園入園はスムーズに決まりました。しかし、小学校の低学年のうちは放課後の帰宅時間が早くなります。共働きの二女夫婦は子どもに習い事をさせたいと考えていたこともあり、融通がきく両親の近くに住むことを望んだのです。

Aさん夫婦は、長女の引っ越しの際にも資金援助を行っていたことから、不公平にならないよう二女一家にも100万円を援助しました。

幸せな老後のはずが…

こうして、気づけばAさん夫婦のすぐ身近に4人の孫たちが大集合する環境ができあがりました。

当初は賑やかさを喜んでいた夫婦でしたが、さすがにやんちゃ盛りの孫が4人ともなると、状況は一変します。昼間は保育園や学校に通っているとはいえ、夕方以降の負担は想像を超えるものでした。毎日の保育園へのお迎え、帰ってくる孫たちの世話、そして大人数分の夕食の支度や片付けなど、休む暇がありません。

さらに、金銭的な負担もじわじわと家計を圧迫。孫たちに買い与えるおやつ代や外食費、ちょっとしたおもちゃ代が重なります。

日常的な育児サポートによって自由な時間は奪われ、Aさん夫婦の身体には肉体的・金銭的な負担が重くのしかかり、心身ともに疲れ果てていってしまいました。

現役を退く前、Aさんは「75歳までは自分の知識や経験を活かして社会で働き続けたい」と願い、妻も「長年続けてきた趣味の習い事をマイペースに長く続けたい」というささやかな希望を抱いていました。しかし、娘たちを助けたい一心で始まった近居生活によって、夫婦の体力と金銭的な計画は、当初の理想から大きく方向転換することを余儀なくされたのです。

「時にはNOという勇気」の大切さ

子どもは小学校高学年ぐらいになれば、手のかかることが少なくなるでしょう。しかしその一方で、今度は進学塾の月謝や習い事の月謝、あるいは教育資金そのものの補填など、より高額な経済的援助を求められる局面が増えていくことも予想されます。

本来、身内が近くにいることは、お互いの大きな安心感につながるはずです。可愛い孫に頻繁に会える機会が増えるのも、本来であればシニア世代にとってなによりの楽しみであり、生きがいになるでしょう。しかし、あらかじめお互いの「境界線」を話し合っておかないと、善意から始まったサポートがいつの間にか義務のようになることも。

Aさん夫婦のこれからの老後生活が実りあるものになるためには、「子どもや孫の助けになってあげたい」という気持ちばかりを優先させるのではなく、自分たちの心身の健康と生涯設計を守るために、時には「NO」といえる勇気を持つことも必要なのかもしれません。

〈参照・出典〉
■内閣府:6年度 高齢社会対策総合調査(高齢者の経済生活に関する調査)の結果(全体版)https://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/r06/zentai/pdf_index.html

三藤 桂子
社会保険労務士法人エニシアFP
共同代表

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