共働き世帯の増加や子育て環境の厳しさを背景に、実家の近くに移り住んで親の支援を頼る子育て世代が急増しています。しかし、この「スープの冷めない距離」での支え合いは、親世代にとって想定外の負担を生む契機になることも。本記事では、Aさん夫婦の事例とともに、孫育ての実態について社会保険労務士法人エニシアFP共同代表の三藤桂子氏が解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
こんな老後のはずじゃなかったのに…4人の孫に囲まれ幸せなはずが、「年金330万円・貯金2,500万円の70歳夫婦」の顔が晴れない理由【FPが解説】
高齢者の同居率と就労状況…多様化するシニア世代のリアル
現代の日本において、シニア世代の家族のあり方や働き方は急速に多様化しています。「2024(令和6)年度 高齢社会対策総合調査(高齢者の経済生活に関する調査)の結果(全体版)」によると、60歳以上で同居している人の人数は「1人(配偶者や子など誰か1人と同居)」が43.6%で最も多く、「ひとり暮らし」が16.7%とそれに続いています。
また、現在の結婚の状況(事実婚含む)を見ると、「配偶者あるいはパートナーがいる」と答えた人が66.1%であるのに対し、「いない」と答えた人は30.8%にのぼります。「いない」人の内訳は、離別(6.9%)、未婚(6.9%)、そして死別が17.0%という構成です。
働き方に目を向けると、「収入を伴う仕事をしている(42.7%)」と「仕事をしていない(52.8%)」でおよそ半々に分かれているのが現状です。ただし年齢層別で見ると、60代前半では7割以上の人が就業しており、60代後半で約5割、70代前半以降から徐々に減少していくという明確な傾向が読み取れます。
実際に、60代前半の約8割以上、60代後半の約6割が仕事による収入を得ており、働く理由も「収入のため」だけではありません。「知識や能力を活かせる」「社会とのつながりを持ちたい」「健康維持や老化防止のため」など、それぞれが多様な目的を持って社会に関わっていることがわかります。
計画が一変…長女の相談を機に65歳で完全引退へ
Aさん夫婦は同い年の70歳。定年後も再雇用で働いてきましたが、65歳で完全引退し、年金生活に入ることに。健康上は夫婦ともになんの問題もなかったため、もともとは、勤務回数や時間を減らしながらでも75歳くらいまではなにらかの形で仕事を続けようと考えていました。しかし、現役引退を決意せざるを得なくなった背景には、ある日、長女から持ちかけられた切実な相談がありました。
Aさん夫婦には娘が2人いますが、それぞれ独立・結婚しており、現在は合わせて4人の孫に恵まれています。夫婦が65歳になったタイミングで、長女から話がありました。
「1人目のときには、すぐに保育園が決まって仕事に復帰できたけれど、2人目は保育園に空きがなく、育児休業の延長をしている状態なの。これからの仕事や子どもの習い事などを考えると、お父さんとお母さんの近くに住もうかと思って、いま不動産屋さんに相談しているところなんだ」
この相談からわずか3週間後、長女から「いい物件が見つかったから即決したの。なんとお父さんたちが住んでいるのと同じマンションだよ!」と弾んだ声で連絡が入ります。幸いにも、Aさん夫婦が暮らすマンションの近隣にある保育園には空きがあったことも、長女一家の背中を押したようです。
こうして、長女一家4人がAさんと同じマンションの階違いに引っ越してきました。同時に、長女から仕事帰りの保育園の送迎を頼まれたため、Aさんは予定を前倒しして仕事を完全引退することにしたのです。
当時のAさん夫婦の経済状況は、年金が夫婦合わせて年額330万円(月額約27.5万円)あり、退職金も含めた貯金額は2,500万円ほど確保できていました。マンションの住宅ローンもすでに完済しています。
そのため、Aさん夫婦は「老後の生活は長女の半同居のような生活から始まることになり、予定より早く仕事は辞めちゃったけれど、経済的にはなんの問題もなさそうだね。孫にも会いたいときにいつでも会えるし、本当に幸せね」と、当時は顔を見合わせて笑っていたといいます。