「将来は優花ちゃんたちに面倒を見てもらおうかな」冗談のつもりだったが…

ある日、母親の三回忌のあと、親族で食事をしていたときのことです。話題は長女・優花さん(仮名)の結婚へと移りました。由美さんは笑いながら言いました。

「みんな家庭を持っていくのね。私はますます一人になっちゃうわ」

そして場を和ませるつもりで続けました。

「将来、何かあったら優花ちゃんたちに面倒見てもらおうかな」

冗談のつもりでした。ところが弟の表情が変わりました。

「姉ちゃん、それは勘弁してくれよ」

一瞬、場の空気が止まりました。

「俺は何かあったら助けるよ。でも、うちの子たちにはうちの子たちの人生があるからさ」

さらに弟は言いました。

「あの子たちを頼りにするのは違うだろ」

由美さんは返す言葉が見つかりませんでした。弟は冷たく突き放したわけではありません。実は両親の晩年、弟は父親からこう言われていたのです。

「由美はひとりだからな。何かあったら気にかけてやってくれ」

弟自身も、そのつもりでいました。ただ、自分の子どもたちにまで同じ責任を背負わせたくなかった。それだけのことでした。しかし由美さんの胸には、ぽっかりと穴が開いたような感覚が残りました。

「頼るつもりなんてなかった」

そう思いながらも、心のどこかでは、何かあったときには家族だから助け合えるものだと思っていたのかもしれません。その夜ふと考えたのです。

「でも、本当に何かあったら、私は誰に頼ればいいのだろう」

老後への不安が、これまでの何倍も重くなった瞬間でした。