明日から一生無職だ!…念願の「FIRE生活」をスタート

思いがけず資産が増えていることに気がついたワタルさんは、「もう頑張って働かなくても、生きていけるのでは?」と、ある考えが頭をよぎりました。それが、いわゆる「FIRE生活」です。

FIRE(Financial Independence, Retire Early)は、日本語で「経済的自立と早期リタイア」と訳されます。アメリカで広がった考え方ですが、日本でも数年前から投資家の関心を集めており、働き方を見直したい人に注目されています。

簡単にいえば、「生活費を労働収入に頼らず、資産の運用益で賄える状態にして、勤労から早期に卒業する」というもの。たとえば、ワタルさんの年間の生活費は400万円。年4%程度の運用利回りを前提にすると、理論上は約1億円(400万円÷4%)の資産があれば、運用益だけで生活できるという考え方です。

仕事に悩んでいる時期とも重なり、日に日にFIRE生活への憧れが強くなるワタルさん。数ヵ月悩んだ末、とうとう「明日から一生無職だ!」と宣言してFIRE生活をスタートさせたのです。

無職だと住宅ローンも組めない…資産が1.2億円あっても「幸せとは程遠い生活」

FIRE生活をスタートして2年くらいは、時間に束縛されない自由な日々に満足していたワタルさんでしたが、徐々に時間を持て余すようになります。

会社を辞めた当初は、ワタルさんのFIRE生活について興味本位で話を聞きにやってきた友人たちも、いまではほとんど会うことがなくなりました。彼らは会社で要職に就いており多忙で、家族もいれば、ワタルさんに割く時間はそうそうありません。

また、最近、ショックなこともありました。賃貸マンションの更新時期が近づいていたため、思い切ってマンションを購入しようと思い、金融機関に住宅ローンの申請を行うと「無職」を理由に断られてしまったのです。

「資産はあるのに、無職だとローンも組めないのか……」と、自分の社会的評価の低さに愕然としました。加えて、父親からも、「働かずに遊んで暮らすとはなにごとだ」と叱責され続けています。

そんな状況下で、ワタルさん自身も社会からの疎外感と孤独感を抱え、まるで“死んだ魚のような目”をして過ごすほど、気持ちが沈むことが多くなりました。

お金の面では悠々自適なはずなのに「幸せではない」ことに気がつき、FIREから3年後、再就職に動き出したのです。

ところが、IT業界は日進月歩の世界。3年間のブランクは大きく、思うように就職先が決まりませんでした。そのため、IT業界はあきらめ、食品メーカーのシステム管理部へ就職することに。

希望の職種ではありませんが、いまは、社会の一員であることを実感する毎日に喜びを感じています。