(※写真はイメージです/PIXTA)
高級老人ホームへの入居と、共有スペースでの違和感
「高かろう良かろう、安かろう悪かろうというじゃないですか。当然、老人ホームもそうだと思っていました」
元高校教員の遠藤正治さん(75歳・仮名)は、有料老人ホームでの経験をそのように切り出しました。
遠藤さん夫婦はともに同い年で、公立高校の元教員。2人で5,000万円近い退職金。年金は夫婦合わせて40万円を超えます。一般的な高齢者世帯と比較して、恵まれた経済基盤を築いていました。
子どもがいない2人は、70歳を過ぎたころから老後の住まいとして、自立(身の回りのことを、他人のサポートなしに自分で行える状態)の人も入居可能な民間の有料老人ホームへの入居を検討し始めました。
選んだのは、都心に位置し、ホテルのような内装と食事の質を強みとする介護付有料老人ホームです。入居一時金として1,000万円を支払い、月々の利用料は2人で約40万円。いわゆる“高級”とされる施設です。
しかし、入居からわずか数週間後、2人は共有スペースのなかに、周囲との壁が存在することに気づき始めます。
「施設に入居している方々の多くは、元会社経営者や地域の有力者など、現役時代に自らビジネスを動かしてきた人たちでした。ラウンジや食堂で交わされるのは、かつての自慢話ばかりでした」
教員の世界という、公的な環境で生きてきた遠藤さん夫婦にとって、利益や競争を前提としたビジネスの話題は馴染みの薄いものでした。しかし、問題は単に会話のテーマが合わないという点に留まりませんでした。
ある日、ラウンジで歓談していた元中小企業経営者の男性から、「先生方はいいよね、民間と違って定年まで守られて、今も立派な年金がもらえるんだから。本当の社会の厳しさとか、知らないでしょ」と声をかけられました。
妻の美智子さん(75歳・仮名)は、当時の心境を次のように語ります。
「会話の端々に『教師は世間知らずだ』という、どこか見下すようなニュアンスが常に含まれていました。そのとき以来、段々と居心地の悪さを覚えるようになったんです」