弁護士の見解

本件のような退去時の原状回復費用をめぐるトラブルは、実務上、非常に多い相談事例です。結論からいえば、「10年居住=全面張替え費用を借主が負担する」という考え方は、ガイドライン上妥当ではありません。

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、通常損耗や経年劣化は貸主負担とされており、借主が負担すべきなのは、故意・過失や通常の使用を超える損耗に限られます。

特にクロスや床材については、耐用年数の考え方が示されており、長期間の居住後に新品同様の費用を全額請求することは、原則として認められません。

また、「次の入居者のために新しくしたい」という事情は、貸主側の都合に過ぎず、その費用を当然に借主へ転嫁できるものではありません。

契約書に原状回復義務の記載があったとしても、その内容がガイドラインや判例の考え方に反する場合、直ちに全額負担が認められるわけではないことを覚えておきましょう。

もっとも、賃借人側も「経年劣化」や「大家負担」を主張しすぎて平行線となり、双方が決着をつけられず、かえって紛争が激化してしまうケースもあります。

重要なのは、見積の内訳を精査し、「経年劣化か、借主負担か」を合理的に整理していくことです。

お互いに、感情的には「1円でも自分に有利に」と感じる場面でも、法的に支払うべき部分とそうでない部分を整理し、ある程度相互に尊重しながら譲歩し合うことが、適切かつ早期の紛争解決に資するといえるでしょう。

山村暢彦
弁護士法人山村法律事務所
代表弁護士

【注目のセミナー情報】​​​
【海外不動産】5月7日(木)オンライン開催
《マレーシア不動産》
投資目的で選ぶ「最新レジデンス」活用術

【海外不動産】5月12日(火)オンライン開催
《ハワイ不動産の最新動向》
円安なのに、富裕層があえて米ドル資産を買い増すワケ