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父の失敗だらけの投資遍歴
新入社員時代に加入した持ち株会は、金融危機後の不況による右肩下がりで転職で退職した際に大幅なマイナスに。2000年代半ばのITバブルや小泉改革の上げ相場で投資した際は、その直後のリーマン・ショックで数百万円を失いました。さらに東日本大震災後の急落でも追い打ちをかけられ、これまでの累計損失は1,000万円近くにのぼります。
アベノミクス以降は上昇基調にあるとはいえ、「少し上がれば、それ以上に暴落する」そんな市場の裏切りを何度も経験してきた中嶋さんにとって、国が推奨するNISAブームは、危ういバブルの再来にしかみえませんでした。
「こんな調子が続くわけがない。絶対に株はまた下がる、下がるぞ……!」
ネットで検索すると同じように感じている同世代は少なくないようです。デフレ時代を代表するアナリストや有名なファンド代表が暴落説を唱えています。中嶋さんには、投資の怖さを知らない娘のような若者が、根拠のない楽観論に踊らされる「情報弱者」に思えてなりませんでした。
「国の施策に乗って投資するとイタイ目に遭うぞ」「お父さんはそれを逆手にとってやる。まぁどうなるかみていなさい」
過去の経験から得た教訓、ネット上の暴落説、そして仕事で培った自信。これらが彼を突き動かし、「株価が下がるほうに賭ける」という勝負に出させたのです。想定どおりであれば、娘に「どうだ、投資も仕事も簡単なもんじゃないぞ」と社会人の大先輩としての父の威厳をみせつけられるはずでした。
しかし、その後の現実はまたしても中嶋さんを裏切りました。日経平均は上昇の手を緩めず、2年後、彼の投資元本は3分の1以下にまで溶けてしまったのです。
一方の美雪さんは……。NISA口座の金額は順調に増えており、威厳をみせつけるどころではありません。
40代以上の投資家が陥りやすい「デフレの呪縛」という死角
株主から預かった株券を保管する証券保管振替機構の「2025年度末 株主名簿の登録情報に基づく統計」によれば、近年は20代の株式保有率が大きく伸びる一方で、40代以上の比率は低下傾向にあります。そこからは、長期の株安で苦い経験してきた中高年層が、現在の上昇相場を信じきれずに足踏みしている状況が窺えます。
中嶋さんのように、過去のトラウマから根拠の薄い暴落説にすがり、逆張り投資で「大やけど」を負ってしまうケースは少なくありません。
人間は、自分の経験が長ければ長いほど、それを「普遍的な真理」として信じがちです。特に手痛い損失を伴う記憶は強烈な先入観となり、正しい状況把握を妨げる「死角」を作り出します。一度その先入観にとらわれると、ネット上から自分に都合のいい情報だけを集めてしまう状態に陥り、先入観をより強固なものにしてしまうのです。
冷静にチャートを眺めれば、日本を含む世界各国の株式市場は長期的に右肩上がりになっていることがわかります。日本において、デフレが続き、株価が停滞した「失われた30年」こそが、むしろ世界的には極めて稀なケースだったといえるでしょう。そしていま、時代はデフレからインフレへとトレンド転換しています。投資戦略も過去の経験則を一度リセットし、現状を客観的に直視することが重要です。
